「絶望した!」
あたし、秋田百子は、どこかのマンガの主人公ならそう叫びたくなるような状況にいたですよ。
一応説明しておきますと(説明せずに判るという人は、ちょっと頭を検査したほうがいいと思うっす、いろいろな意味で)、あたしが今いる場所は、青城女学院の講堂の中。で、ついさっきまで、新入生対象の(あたしも新入生のひとりだ)部活動紹介が行われていたところ。
こう見えてもね、高校生活は部活動に汗を流す、って決めてたんですよ、あたしは。だから、この学校に入学して、一番楽しみだったのが、この部活動紹介。そして、いよいよその時がやってきて──。
「秋田さん、どうしたの? なんだか暗い顔してるよ?」
「あ、ざわっち……」
落ち込んでるあたしに話しかけてきたのは、同級生の相沢保美。出席番号、あたしの一つ前にして、寮での同室。かわいい子なんだけど、いまだにあたしのことを「秋田さん」と呼ぶのだけはちょっと納得いってない。
「入りたい部活がね、無かったのよ……」
「何に入りたかったの?」
「軽音楽部……」
そう。最初に絶望してた理由がこれ。あたしの考えでは、軽音楽部に入って、バンドはじめて、学園祭とかで注目されて、ネットとかで話題になって、プロからお誘いが──まあ、最後の方は半分冗談だけど、それでもあたしは高校でバンドやりたかったんですよーっ!
「秋田さん、楽器何か弾けるの?」
「いや、全然」
あたしの返事を聞いたざわっちが、何とも言えない表情になる。
「えーっと……」
「今から覚えればいいのよ!」
いや、結構やってみればなんとかなっちゃうものなんです。これ、あたしの経験則。
「そういうざわっちは部活決めた?」
「わたしは、運動苦手だから……」
「あー、そんな事言ってたわね」
部活紹介をひととおり見て分かったことは、ここ、青城女学院はスポーツ系の部活がとても盛んだ、ということ。人数も、設備も整っているところが多い。全国大会常連、なんて部活も珍しくない。逆に、文化系の部活はあまり活気がなさそう。
「じゃ、あたしもざわっちも部活難民かあ」
「いいんじゃない? そんなに慌てて決めなくても」
ざわっちが微笑みながらそう言った。その顔を見ていると、それでもいいかな、って気分になってくるから不思議。
☆
その日の帰り道。今日は土曜日で半日授業──その半日を部活紹介で費やしたわけなんだけど──で、まだ陽は高い。あたしとざわっちは、寮へ向かう道を二人で歩いていました。あたしはまだ部活紹介の件で多少落ち込み気味。だから、自然と口数も少なくなって、二人で帰っているというよりは、ただ二人並んで歩いているような感じで。
あー、こういう空気は苦手ですよー。でも、それを作ってるのはあたしなわけで。こういうときはどうしたらいいのかしら。
そんなことを思っていると、なんと、ざわっちのほうから声をかけてきてくれた。
「ね、ねえ、今日の午後、予定空いてる?」
「え、うん。特に用事とかは無いけど」
「じゃあさ、お昼食べたら駅前に遊びに行かない? 私、こっちに来たばかりだから商店街とかまだよく知らないし。秋田さんもどう?」
うわー、ざわっちのほうから誘ってくれるなんて。この子の事だろうから、きっといろいろ考えて、勇気を出して言ってくれたんだろうな。そう思うと、素直に嬉しいですよ。
「もっちろん! 行く行く! やったー、ざわっちとデートっ」
「で、デートって……」
「そうと決まったら善は急げですよ!」
あたしはざわっちの手を引いて、ちょっと早足で駆け出した。そして、普段は真っ直ぐ通りすぎる曲がり角を左に曲がって、小さな道に入る。
「秋田さん、この道って?」
「寮までの近道なの! この間発見したの」
近道と言ってもほんの二、三分なんだけど。今は少しでも早く、ざわっちと一緒に出かけたい。
「とうちゃーく!」
あたしたちはあっと言う間に寮の入り口へとたどり着きました。
「はぁ、はぁ、はぁ……秋田さん、走るの速いよぉ」
あたしのすぐ横では、ざわっちが両手を膝に乗せて大きく息を弾ませている。いや、そんなに速く走ったつもりは無いんですけど。
「ざわっち……ほんとに体力無いのね」
「そ、はぁ、はぁ、そんなこと言ったって……」
「じゃ、ここからはゆっくり行こ」
あたしはもう一度ざわっちの手を取って、寮の門をくぐった。B棟の玄関に入り、靴を脱いで、階段を上って二階の廊下の一番はじっこにあるあたしたちの部屋へ。
ドアを開けると、中から温かな空気が漂ってくる。今日は天気がいいので、部屋の中に差し込んだ陽光が部屋を温めていたんでしょうね。
「さ、とっとと着替えて食事行こ」
「うん」
制服を脱いで、適当な服に着替え──ようとして、手を止める。せっかくのデートだし、ちょっとおしゃれした方がいいかな。でも、あんまり長く服を選んでる時間もないし。というわけで、最近お気に入りの、白のブラウスに赤いチェックのミニスカートに決定。うん、春らしくていいんじゃないでしょうか。
ざわっちは、ワンピースのロングスカート。淡いピンク色がおとなしい彼女らしくて似合ってる。
「おまたせ。行きましょ」
食堂で昼食を摂ったあと、あたしたちは予定通り、駅の方へと向かった。駅前は、結構大きな商店街があって、一度ちゃんと見ておきたかったんだ。
「なんか、思ってたよりいろいろなお店があるのね」
「うん。あたしの地元じゃこんな立派な商店街、なかったからなー」
「秋田さんの地元って、どこ?」
「Y県の片田舎。ほんと、なんにも無いところよ。ハッキンビーフハンバーガーができるってだけで大騒ぎになったんだから」
テレビのCMソングで「わたしの町にももちろんあるし、あなたの町にもあるかもしれない♪」という歌だけは知ってたんだけど、それが地元にまで来るとは、いや、あの時は驚いたっすね。
「あー、わかるわかる。わたしの方も、スターパックスコーヒーができるって話題になったもの」
「田舎って、どこも似たようなものなのね……」
「そうかもね」
変なところで共通点が見つかってしまった。でもちょっと嬉しい。
- to be continued -