カチッ。カチッ。
「あれ? 点かないよ」
ここ、オールドホームは名前の通り古い建物だ。建物の半分ぐらいは電気が通っていなかったりする。この部屋にはスイッチがあるから、電気は通ってると思われたが。
「レキー、ここ、電気、点かないよ?」
「あぁ、それは元からそうなんだ」
「元から?」
「そう。灰羽は人の使ったものしか使えないからね。
切れた電球しか使えないんだ」
「……意味ないじゃん…………」
☆
「下着?」
「う、うん。ほら、その、換えの下着、欲しいかなぁ、って……」
「あ、そういえば私も昨日1枚ダメになっちゃったんだっけ。ついでだから、一緒に行こうか?」
「うん、ありがと、ネム」
ネムとラッカは、古着屋のある下町へと向かった。だが、ネムは古着屋を通り越してさらに先に進む。
「あれ? ここじゃないの?」
「ああ、そこは下着は売ってないのよ」
しばらく進むと、通りの雰囲気が変わってきた。やけに派手な看板や、同じように派手な立て札を持った男の人などが見受けられる。……正直、居心地は悪い。
「ねぇ、どこに行くの……?」
「もうすぐよ。ほら、あそこ」
ネムが指したのは、何の看板も出していない、小汚い、薄暗い店だった。
「……灰羽か」
カウンターには目つきの悪い中年の男が一人。店内には数人の男がいた。皆、一様に息が荒い。目が血走ってる者もいる。
「ほら。未整理未洗濯脱ぎたての在庫だ」
そう言って、カウンターにいた男は木箱を持ってきた。古着屋でも思ったことだけど、洗濯はしてほしい。っていうか、脱ぎたて、って、なに……。
とりあえず、必要な分を買うと、二人は店を出た。
「ねぇ、あの店、なんなの……?」
「ん、あぁ、下着専門の古着屋なんだけどね。店員の愛想が悪いのはまぁ見逃しても、あの客はどうにかして欲しいわよね。ほんと、これだから男って嫌い」
いや、むしろあちらの方があそこの雰囲気には似合っていた。
ああいう店は、「ブルセラショップ」と言うのではないでしょうか、ネムさん。
とりあえず、裁縫の腕を磨こう。下着ぐらい自分で縫えるぐらいに。
☆
「おはようー、ラッカ」
「おはよう、クウ」
朝のゲストルームには、レキ、ネム、カナ、ヒカリ、クウ、そしてラッカという、いつものメンバーが集まっていた。
「今日の朝食係はだれだっけ?」
「えっとね……カナとクウだって」
「あー、そうだっけ」
カナが、すっかり忘れてたという顔をする。
「しゃーない。行くか。あ、そうだ。ラッカも来る?」
「え、私?」
行くってどこに行くのだろう。買い物かな?
「そうだね。ラッカにも慣れてもらわないとね」
「よし決まり! ほら、行くよ、ラッカ!」
「え、え、うわぁ!?」
言うや否や、カナはラッカの手を引っ張って外に連れ出した。クウもその後に続く。
「どこに行くの?」
「街までね。食料調達」
しばらく歩いて市街地にたどり着く。まだ朝早いせいか、人影はまばらだ。
こんな時間にお店が開いているのだろうか ── そんなことを考えながらカナとクウの後に続く。
たどり着いたのは、レストランのようだった。 ── それも、かなり高級そうな。もちろん、入り口には「closed」の札がかかっている。
「ね、ねぇ、こんなところに来て……」
どうするの、と言う前にクウに手を引っ張られる。レストランをぐるっとまわり、たどり着いたのは薄暗い小道。目の前には小さな扉。どうやら、レストランの裏口のようだ。
「おっじゃましまーす」
カナもクウも、まるで関係者のような感じでドアを開けて中に入って行く。
中は厨房のようで、調理器具や皿などが所狭しと、だが整然と並べてある。そして、床にいくつかの大きな袋が置いてあった。
カナはそのうちのひとつを開けて、中を確かめるように覗き見た。
「あ、あの、それは……」
「ん? あぁ、このレストランの残飯だよ」
「……ざんぱん?」
あの、丸顔で、頭が交換可能で、愛と勇気しか友達のいない人……ではない、と思う。
「そ。賞味期限の切れた食材とか、調理したけど失敗したやつとか、食べ残しとかね」
「灰羽は、人の使ったものを使い切るのがしきたりなんだって。だから、こうやって残った食料をもらってるんだよ」
「だーいじょうぶ。一日二日、賞味期限切れてたって死にやしないって。それに、ここはグリの街でも文句無しのトップレストラン! 味は保証つきだって!」
「…………ぃ」
「い?」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ラッカの叫び声が、朝のグリの街にこだました。
☆
昼下がりのひととき。オールドホームのゲストルームは、いつものメンバーにより占拠されていた。ようは、お茶の時間なわけで。
もちろん紅茶は使い古しで、色も味も薄い。
最初は仕事の話などしていた彼女たちだが、やはりそこは女の子同士。身近な噂話などのほうが話が弾むというものである。
そんな中、ふと思いついたように、ラッカが尋ねた。
「そういえばさ。みんなは恋人とかいるの?」
………………
一瞬、沈黙が流れる。もしかして、聞いてはいけないことだったのかな。
「ん〜、残念ながらね。私はいないよ」
最初に口を開いたのはカナだった。そして、次々と「いない」という声が。結局、誰も特に好きな人とかはいないようだ。
「何しろ、仕事が忙しいしね」
「それにね、いい男ってなかなか転がってないものよ」
「なにしろねー。しきたりがあるからねー」
「……しきたり、って?」
悪い予感がする。
「ほら、灰羽は人の使ったものしか使えないでしょ。だから、誰かに捨てられた男しか彼氏にできないわけよ」
「で、捨てられた男なんて、ロクなのがいるわけないのよね〜」
「そうそう。カナの方がかっこいいし」
「うわっ、抱きつくなっ、ヒカリっ!」
……帰りたい。昔、住んでいたはずの場所へ。
テーブルに突っ伏して両目から滝のように涙を流しながら、本気でそう思うラッカであった。
- fin -