ガンパレード・マーチSS
春の嵐

 3月。冬がその力を弱め、春の足音が一日ごとに大きくなってくる。暖かな光はすべての生命に活力を与え、生きる希望を与える。それは人間も同じこと。
 だが。そうではない人種、というのも、確かに存在するのだ。

「ふぇっくしょん!!」
 ズズズズズ。
「ックション!!!」
 ズズズズズズズズズズ。
「う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛」
 グスグスグス。
「おはよう、舞…………。大変そうだね、花粉症」
「芝村に゛、グズッ、あい゛ざづは、ズズッ、な゛い………」
 朝、速水が舞に声をかけたとき、舞は「じにぞうなふんいぎ」だった。
「死にそうな雰囲気、ね」
「……だまれ。……ックシャン!!」
 舞はポケットからポケットティッシュを取り出すと、「チーンッ!」と勢いよく鼻をかんだ。
「薬、飲まなかったの?」
「今日は、目覚ましのやつが職務怠慢だったのだ」
 どうやら、目覚まし時計の電池が切れていたらしい。電子機器の扱いは誰よりも手慣れているのに、時計の電池交換はできない。芝村舞の七不思議の一つである。
「それで朝食を摂ってないからな。薬を飲むわけには、グズッ、いかん」
「そこまでこだわらなくても……」
「たわけ。あれは食後以外に飲むと、猛烈な眠気に襲われるのだ。出撃のとき、眠ってしまうようでは使い物にならん」
「でもねぇ……」
 クシャン! またひときわ大きなくしゃみをする舞を横目で見ながら速水は思った。
(この状態でも、十分使い物にならないと思うんだけど……)
 そんな視線に気づく余裕もなく。芝村舞の春の一日は始まるのであった。

「へえ〜……芝村さんが、花粉症、ですか……」
「うん。教室に入ったとたんにくしゃみやろ。そのあとも授業中鼻すする音が鳴りっぱなし。さすがにちと驚いたわ」
 昼休み。食道兼調理室では加藤、壬生屋、ののみ、田辺が食事を摂っていた。話題は芝村舞の体調について。
「1組に他に花粉症の人はいないんですか?」
「そうやなぁ。とりあえず授業中に苦しそうなんはおらんかったなぁ。滝川が寝てたけど、あれはいつものことやし」
「私は鍛えてありますから。2組のほうはどうなんですか?」
「も、特にいないみたいですよ」
「舞ちゃんは、おくすりのまないとめーなのよ」
「そうやなぁ。あれは飲まんとあかんやろ。もしくはちゃんと病院行かんと」
「でも、少し安心しましたわ」
「安心?」
「そうですね……ちょっと安心とは違うんですけど。芝村さんって、なんでも完璧にこなしちゃうじゃないですか。それにいつも気が張っていて近寄りがたくて……。」
「あー、それあるある」
「でも、芝村さんにも弱点……というか、思い通りにいかない事もあるんだなぁ、って。そう思ったら、なにか、そんなに悪い人でもないんじゃないのかな、って」
「そうやなぁ。速水にものすごい心配されてたもんなぁ。速水の気持ちもわかる」
「なんかその様子が目に浮かびます。速水君らしいですね」
「舞ちゃんはほんとはいいこなのよ。ただ、お話しするのがにがてなんだって」
「そうね。ののみちゃんの言う通りかもね」

舞についての良い噂がたちました。
全員の友情+10!

「ふぇっくしょん!!」
 そのくしゃみが噂のせいなのか、花粉のせいなのか、舞に区別がつくはずも無かった。

 ぐすっ。ぐすっ。
 昼休みが終わって午後の授業が始まっても、舞の状況に変化は無かった。
「舞……薬飲んだの?」
「飲んだ。だが、そうすぐには効かないものなのだ」
「そうなの?」
「そうだ。だいたい……ハックション!! ……うぅ、ここは、花粉が多すぎる。ぐすっ」
 その時、教室のスピーカーからサイレンが響きわたった。
 出撃の合図だった。

「嫌だ」
 舞がそういう反応を示すことはそこにいた全員が分かっていたので、出てきたのは溜息だけだった。
「芝村さん……我々は軍人なのです。命令には従わなければなりません」
 善行の一般論にすら反応できないのは、自分でもそれがワガママだとわかっているからだろう。突然の出撃は珍しくないし、舞もいつもその命令には従ってきた。
「だが、なぜ戦場がこんな杉林のそばなんだ!! ックション!!」
 そう。今回命令が下った場所は、大量に杉の生えた山間に開けた土地だった。しかも、今日は風が強く気温も高い。絶好の花粉日和だ。
「こんな状態で……グスっ、満足に戦えると思うのか?」
「戦うのです。それが命令です」
 軍隊というのは非情なところである。
「大丈夫だよ、舞。今日は敵戦力もそれほど大きくないみたいだし」
 速水の説得(気休め)もあって、どうにか舞は士魂号に乗ることを承諾した。
「それでは時間がありません。パイロットは全員搭乗! 士魂号、全機クールからホットへ!!」
 善行の指示とともに、パイロットたちが士魂号に乗り込む。立ち上がる、全高9mの巨人。それを見ながら、全行は指示を出した。
「先陣は滝川機! ミドルレンジでの射撃戦をお願いします」
「了解!」
「壬生屋機は滝川機の護衛を。射線をかいくぐった敵の殲滅をお願いします」
「了解です」
「速水機は滝川機の後方から支援射撃。ある程度敵に接近したところで敵の射線を回避してミサイルを使用してください。それで一気に敵陣形を崩します。いいですね、芝村さん」
「了解した……グス」
「幻獣実体化まで180秒!」
 オペレータの瀬戸口の声が響き渡る。
「それでは各自作戦位置についてください。アールハンドゥ・ガンパレード!!」
 3機の士魂号が戦場にむけて歩き出した。スカウトがそれに続く。善行は、3番機を見て、つぶやいた。
「速水君がくしゃみまみれにならなければいいんですが……」

 幻獣側は、ゴブリンとゴブリンリーダーの混成部隊だった。その他にミノタウロスが数体、ナーガが2体。数の多さと、ミノタウロス相手という、やりにくい相手だ。
「でも、ミノタウロスは近づかなければ大丈夫だし、気をつける必要があるのはナーガの射線だけだね」
「そのあたりは任せたぞ、厚志……クシャン!」
 今日の舞は本調子ではない。もちろんそんなことを言ったら「芝村に調子などない」と言われるのは分かっているので、
「了解。任されたよ」
そう答えて、士魂号を射撃優先にセッティングした。ガンナーが不調の今は、少しでも命中率を上げたほうがいい。その分回避行動に影響が出るが、そこは自分の腕でどうにかすればいい。
「来たぞ! 敵先頭、ゴブリンの列だ」
 瀬戸口の声が響く。舞は1体のゴブリンがレンジに入ったと同時にトリガーを引いた。ジャイアントアサルトの銃身が重い唸りを上げる。無数の銃弾がゴブリンに吸い込まれると、ゴブリンはよろめきながらその姿を消した。
「速水機、ゴブリンを撃破!」
「やったね、舞!」
「この程度で喜ぶな。まだ敵は……グスッ、いるのだグスッ」
(大丈夫かなぁ……本当に)
 そんな速水の思いをよそに、戦況は、善行が予想したとおりの展開になっていった。幻獣の群れは、先頭で銃を撃っている滝川機と刀で応戦している壬生屋機をを目指している。
「速水機、D地点に移動後、ミサイル発射! 壬生屋機、滝川機、離れてください!」
 絶妙のタイミングで善行が指示を出す。
「行くよ、舞!」
 速水が複座型を大きく右にジャンプさせた。着地した次の瞬間、前方へとさらにジャンプ。パイロットには負担の大きい動きだが、これがもっともすばやく移動できる方法だった。その間に、滝川も壬生屋も自分の機体を反転させ、敵から離れるようにジャンプした。
「よし、いいよ、舞!」
 ジャンプの衝撃が収まるや否や、舞は手馴れた様子でロックオンモードを起動した。視界を士魂号にリンクさせる。1、2、3。次々と標的がロックされていく。速い。
 その時だった。
「ふぁ……ふぁ……ハックション!!」
 舞がそれは盛大なくしゃみをした。
「うわっ、舞、汚いよっ!!」
「ず、ずま゛ん」
「いや、いいよ。それより敵は?」
「あ………………」
「…………あ、って……?」
「すまぬ。先ほどくしゃみした瞬間にロックのリセットをかけてしまったようだ……グス」
「そ、それって……」
 速水が外を見たときには、すでに敵の先方が士魂号に攻撃を仕掛けようとしていた。
「うわぁっ!」
 グワンっ!!
 ゴブリンが殴りかかってきたのだろう。士魂号に衝撃が走る。
「舞っ、いったん離脱しよう!」
「待て、今再ロックをかけている。少し耐えろ」
「再ロックって、こんな至近距離でっ!?」
 先ほど士魂号のセッティングを射撃優先にしたのが裏目に出た。微妙な回避運動が間に合わない。
 ドスン!! 再び衝撃が来た。
「くっ」
「1、2、3……ふふふ、幻獣どもめ。芝村の地獄に落ちるが良いわ」
 その時だった。
「は……ッックシャンン!」
「うわぁっ! 舞! 鼻かみなよ!!」
「あ………………」
「…………あ、って……?」
 ついさっきも同じ会話をしたような気がする。と、背後から衝撃が響いた。敵の攻撃ではない。これは……ミサイル発射の振動?
「……ロック完了前に……発射トリガーを……クシャン、クシャン! ……うぅ、押してしまったようだ。
「押してしまったってー!!」
 士魂号の周囲で爆発が起きた。狙うべき目標を持たないミサイルは、迷走してすべて近くの地面に激突した。
「うわぁぁぁっ!!」
 至近距離での爆発のため、士魂号にも衝撃が加わる。
「敵は……?」
 衝撃が止み、速水は戦術レーダーをのぞいた。
「あ………………」
「あ、では分からん。どうしたのだ、厚志」
 さっきから『あ』という返事をしているのは君じゃないか。
 そんな軽口を言う余裕は今の速水には無かった。
「全部、はずれたみたい……」
 速水の顔が青ざめた。続いて舞も。

 指揮車の中から一部始終を見ていた善行は、大きな溜息をついた。
「速水機……全力で撤退してください。滝川機・壬生屋機も」
「司令!?」
「切り札を失ってしまいましたからね……これ以上、無駄に被害を増やすこともないでしょう。」
「ということだ。速水。がんばって逃げて来いよ〜」
「そんな投げやりなー!」

本日の戦績:人類側敗北
速水・舞:撃墜数1

 翌日。舞は、不機嫌だった。昨日の戦いでは結局、逃げる際に機体に大きなダメージを負ってしまっていた。現在、複座型は大急ぎで修理の真っ最中である。
「これというのも……杉が花粉など飛ばすから……ハクション! ……グスッ、悪いのだ」
「それって八つ当たりなんじゃぁ……」
「黙れ」
 繰り返すが、舞は、不機嫌だった。ミサイルは外すわ、機体はボロボロだわ、始末書は山ほど書かされるわ(始末書で済んだだけよしとしなくちゃ……なんて慰めはもちろん逆効果である)、それなのに相方は相変わらずぽややんだわ。
「だいたい、なぜ貴様は花粉症にならんのだ!?」
「なぜって……体質の問題じゃないのかなぁ?」
「ううううう、おのれー」
 さすがに速水も、これはしばらく放っておいたほうがいいと思い、用事があるといってその場を離れた。だから、舞のつぶやきは誰にも聞かれることは無かった。
「ふふふ……そうだ。杉さえなければいいのだな。そうだ。フフフフ…………」

 舞はハンガー1階に足を運んだ。中では、整備主任の原が、技術書とにらめっこしながわうめいている。
「原、頼みがある」
「何よ。複座型の修理ならまだしばらくかかるわよ」
「そのことではない。これを作って欲しいのだ。そなたは開発技能を持っていただろう?」
 そう言って、舞は手に持っていた資料を原に渡した。
「あのねぇ……今、複座の修理で手一杯なの。わかる?」
「それならば急がずともよい。先ほど、新型を陳情しておいたからな」
「新型……? なにそれ?」
「ニ、三日後には来るであろう。それより、その資料を」
「…………人型戦車用、フレイムランチャー?」
「まぁ、いわゆる火炎放射器だ。それと新型で、新たな作戦が立てられる」
「でも、こんなもの……」
「もちろん、タダで、とは言わん」
 そう言うと、舞はポケットから数枚の写真を取り出した。
「これは……!!」
 そこに写っていたのは、善行だった。しかも、まともにこちらを向いた写真は1枚もない。どう見ても盗撮っぽかった。食事中の善行。仕事に励んでいる善行。だれかと談笑している善行。デスクで居眠りしている善行、そんな写真が並んでいた。
「完成のあかつきには、着替え写真も渡そうと思うのだが」
「分かったわ。本気を出させてもらうわよ!」

 原はガンパレード状態になった!!

「……なに買収されてるんですか、先輩」
「あら、森さん」
「あら、じゃないですよ。芝村さんもヘンなことに先輩を巻き込まないでください」
「そうだな……森、そなたにも手伝いを頼もう。確か開発技能は持っていたな?」
「そりゃ、持ってますけど……むしろ、手伝って欲しいのはこっちなんですけど?」
「ほう。これでも手伝う気は無いと」
 そう言うと、舞はまた別の写真を出して、森に見せた。
「…………!!」
 そこに写っていたのは、茜の写真だった。こちらも盗撮のようだ。
「もちろん、完成のあかつきには……」
「わかりました。私もやるときはやります!」

 森はガンパレード状態になった!!

 3日後。
「これが……新型」
 ハンガーに運び込まれたのは、士翼号だった。
「そうだ。なんと言っても機動性が士魂号とはけた違いだ……グズッ。ところで、例の物は……?」
「今朝、出来たわよ……」
 見ると、原も森も、憔悴しきった目をしていた。はたから見ると、かなり、怖い。
「で、報酬は……?」
「安心しろ。後で届ける。さすがに今は持っていないのでな」
 その時、スピーカーからサイレンが響きわたった。出撃の合図だ。
「ちょうど良い。早速試せる」
 舞はそう言って、ニヤリと笑った。

 告げられた戦区は、奇しくも4日前に舞たちが敗北した場所だった。違うのは敵戦力。主戦力はゴブリンリーダーだがミノタウロスもいる。さらに、駿足なきたかぜゾンビに、移動要塞とも言えるスキュラが1体。
「いいですか、今回は負けは許されません。芝村さん、大丈夫ですか?」
「安心しろ、善行。今日はちゃんと薬も飲んでいる。それに、新型もあるしな」
 自身たっぷりに答える舞。
「本当に……大丈夫でしょうか? 速水君はどう思います?」
 単座の士翼号では速水は出番が無いので、とりあえず整備班と共に戦場に来ていた。
「体調はよさそうですけど……あれ、どうするつもりなんでしょうね?」
 あれ、とは、もちろんフレイムランチャーのことである。士翼号の全長にも匹敵するほどの長いランチャーは、かなり異様に見えた。
「それでは各自作戦位置についてください。アールハンドゥ・ガンパレード!!」
 2体の士魂号と、1体の士翼号が敵陣に向かい進みだす。と、舞から壬生屋・滝川機に通信が入った。
「よいか。ここは私が先陣を取る。お前たちは下がっていろ」
「下がっていろって、なにをするつもりですか!?」
「焼け死にたくなければ下がっていろ、というのだ」
「焼け死ぬって……」
「まいちゃん、ミノタウロスが近くにいるのよー!」
 オペレータのののみが警告を伝える。
「分かっている」
 そう言うと、舞はランチャーを構え、ミノタウロスのほうに向けた。ミノタウロスも士翼号を見つけたようで、攻撃を加えようと近づいてくる。
「ファイア!!」
 ミノタウロスがランチャーのレンジに入った瞬間、舞はトリガーを引いた。
 ランチャーの先端から、猛烈な勢いで炎が一直線に噴き出す。まるで槍だ。直撃を受けたミノタウロスは慌てて炎を避けようとするが、炎はそれを許さず、ミノタウロスの肉を焼き焦がしてゆく。それは、火というより、全てを喰らい尽くす悪魔の舌のようだった。
「芝村機、ミノタウロスを撃破! ……すげぇ」
 瀬戸口から思わず溜息がこぼれる。
「って、関心してる場合じゃねえ。芝村! 前方にミノタウロス1匹とゴブリンリーダー2匹!」
「了解した」
 そう言うと、舞はランチャーのセッティングを調整し、再びトリガーを引いた。すると、今度は炎が扇状に広がった。射線を外れた位置にいたはずのミノタウロスとゴブリンリーダー1匹が炎に包まれる。もう一匹は、恐れをなしたのか、その場から動けないでいた。
「たわけが」
 すぐさまその一匹に銃口を向ける。慌てて背を向けて林の方に逃げ出すゴブリンリーダー。その背中に向けて、舞はトリガーを引いた。炎の槍は狙いを外すことなく標的を燃やし尽くした。
 だが、場所が悪かった。炎はゴブリンリーダーだけでなく、すぐそばの木をも燃やし始めたのである。火はすぐに隣の木にうつり、その火はさらに次々と近くの木へと移って行った。低空飛行をしていたきたかぜゾンビが火に煽られ、バランスを崩し落下した。
「芝村さん! 放射を中止してください! 山火事になってしまいます!!」
 善行が慌てて中止命令を出す。
「何を言う。こうやって敵をあぶり出しているだけだ。1体づつやるよりまとめてやったほうが効率的だろう」
「しかし!!」
「それに、杉林が焼ければ花粉も飛んでこなくなるだろうしな」
 ……それが本当の理由かッ!!!
 舞は次々と炎を吐き出し、杉の木々を焼いていく。
「クックック。さぁ、燃えてしまえ!! 芝村に仇なすものの末路を思い知るがよい!!! アーッハッハッハッハッハッハッハ!!!」
 回線を通して指揮車内に舞の高笑いが響いた。
「…………どーすんですか、アレ」
「…………どうしろというんですか」
「まいちゃん、ひすてりーはめーなのよーー!!」
「…………ウチ、知らんでー」
「……馬鹿、だわ…………」
 あきらめに似た感情がその場を支配する。その時。
「舞っ、こんなこともうやめなよ!」
 速水が叫んだ。ウォードレスを着て、手にはハンドスピーカーを持っている。
「おお、今は無職の速水くん!」
「無職ってのやめてくださいよ、善行さん! それより舞! こんなことしてもどうにもならないでしょ!!」
「黙れ。敵と定めたものに対して情けを掛けることはしない。それが芝村だ」
「でも、そんなことしたら、森に住んでるうさぎさんやきつねさんも焼け死んじゃうよ!!」
 ビクッ。
 士翼号の動きが止まる。
「だだだだ黙れ。正義の戦いに犠牲はつきものだ……」
 舞の口調もどこか弱弱しい。
「もしやめないって言うなら……」
「言うならなんだというのだ」
「僕が舞にされたコト、全部言っちゃうから!!」
 ピシィッ!
 今度は小隊全員が固まった。
「な゛な゛な゛な゛な゛な゛ぬ゛を゛…………」
「ふ、不潔です!!」
「あぁ、俺のバンビちゃんもとうとう大人になっちゃったか……」
「あーっ、この野郎! 一人で抜け駆けしやがって!!」
「ほぇ? あっちゃんとまいちゃんどうかしたの?」
「……馬鹿、だわ…………」
「え〜い、黙れ黙れ黙れ! 貴様らの考えてるようなことなど何もしておらん!」
 その時の状況を正しく判断していたのは、小隊内に何が起こったのかよく分かっていないののみだけだった。
「まいちゃん! うえっ!!」
「黙れ。うえがどうしたと……上?」
 舞が上を見ると。ちょうどそこには、炎に包まれたスキュラが、重力に引かれて舞の乗った士翼号の上に落ちてくるところだった。
「何ーっ!?」
「舞、よけてーっ!!」
 舞はとっさに落ちてくるスキュラに向けて右手を打ち出した。
「そこで殴りますか、普通ーっ!!」
「うわ、善行はんがツッコミ入れとる」
 士翼号の右腕がスキュラの頭部にめり込む。
「おぉっ!!」
「見事ですわ」
 まるで空手の演舞のような見事な突きだった。スキュラの動きが一瞬止まる。
 だが。いかな士翼号とて重力にはかなわなかったようだ。ダメージを与えたものの、スキュラの勢いを殺すことはできず、士翼号は地面に叩きつけられた。大きな音とともに土煙が高く上がる。
「芝村機、転倒!!」
「えっとね、スキュラもしょうめつなのよ」
「芝村機は無事ですか?」
「こちら……芝村。大丈夫だ……ックション!! あががががががが」
「ど、どうしました?」
「いや、くしゃみをした途端腕に激痛が……ぐす。おおかたヒビでも入ってるのだろう」
「あなたは大丈夫なんですね?」
「当然だ」
「壬生屋さん、滝川君、芝村さんの救出を急いでください。いつ火がまわってもおかしくないですから」
「「了解!!」」
 こうして、どうにか戦闘は終わった。

 舞はすぐに病院に入れられ、骨折・打撲・軽いやけどなどで全治3週間と診断された。士翼号は結局動力系がずたずたになっていたため、わずか1戦で廃棄。また、例のフレイムランチャーも廃棄された。危険すぎる、という理由で。
「ところで……芝村にされたことって、なんだったんだ? バンビちゃん」
「え? ああ。このあいだの日曜日、図書館に連れて行かれて、なんだかすごく難しい本の解説を聞かされたんだよ。まったく、せっかくの休みだってのに……」
「ま、お前と芝村じゃ、そんなもんか……」

 翌日。速水は舞が学校に来ているのを見かけた。たしか、全治3週間と聞いていたはずだが……。
「うわっ、舞! なんでここにいるのっ!?」
 舞は、片腕にギプスをして首から釣っていた。片足もギプス。もちろん松葉杖装備である。ほかにも体のあちこちに包帯が巻いてある。服は地味なパジャマ。絵に描いたような怪我人スタイルだった。
「たわけ。この忙しいときに怪我ごときで休んでいられるか」
「そうは言ってもさぁ……」
「ッハクション!! あ゛だだだだだだだだだ!!」
 舞の額に脂汗が流れる。どうやらくしゃみが響くらしい。そうとうに痛そうだ。
「ほらぁ、ちゃんと寝て治さないと……。こんなことしてたら治るものも治らないよ?」
「黙れ。芝村に調子は無い」
「そんなこと言ってもねぇ……。クション」
「ん、どうした、厚志?」
「わかんない……。ックション!クシャン!」
「風邪か?」
「いや、寒けとかはしないし、喉も痛くないし……」
 舞はニヤリと笑って、言った。
「厚志。花粉症はな。誰にでも突然やってくるものらしいぞ」

 速水が、突然その生き方を変えたのは、それから数日後の事である。

- fin -

あとがき


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