灰羽連盟 SS
カフェ『Karite』にて(体験版)

「こんちわー」
「お、また来たか、坊主」
「もう、そのぼうず、ってのやめてよー。クウにはちゃんと、クウって名前があるんだから」
「はっはっはっ。悪かったな、ぼうず」
「全然反省してないー」
「悪い悪い。で、いつものか?」
「うん。豆のスープ!」
 その坊主がいつからこの店に来ていたのか、よく覚えていない。気がついたらそこにいた、そんな感じだ。
 なにせ、あの年頃の子供なんて周りにいくらでもいるからな。うちに出入りする客も多かった。その中の一人だと思ってた。
 ただ、ちょっと他の連中と違うところがあるとすれば。背中に生えている羽と頭に付いているワッカ。まぁそれだけだ。

「わー、灰羽さんだ。ねえ、灰羽さんはなんていう名前なの?」
「クウはね、クウ、っていうんだ。君は?」
「あたしはチエ。八さい!」
「クウは……十三歳ぐらいかな。こっちに来てからはまだ一年だけどね」
「じゃ、あたしの方がお姉さんね!」
「えぇっ、だってわたしの方が、背、高いじゃない」
「人間なら、一歳なんて、まだ赤ん坊よ、あ・か・ん・ぼ・う。分かる?」
「そりゃ分かるけどさぁ〜」

 最初に、その坊主と仲良くなったのは、うちの娘だった。娘のチエは、もともと人懐っこい性格で、うちのマスコット的存在だった。一部の常連からは、「この店がやっていけてるのはチエちゃんのおかげだ」なんて皮肉まじりに言われたりもする。そんな連中に限ってチエにお菓子をやってたりするのだから……。客とはいえ、そろそろやめさせないと、チエの教育上良くない気がする。
 まあそれはともかく。その坊主はそれからちょくちょくうちの店に顔を出すようになった。

「ねえ、クウは友達いないの?」
 ある日、チエがその坊主にそう訊いているのがふと耳に入った。混雑する昼飯どきも終わり、ちょうど手が空いた時間だったからかもしれない。
「いるよ。いっぱいじゃないけど……みんな、大事な友達」
「じゃ、どうしていっしょに来ないの? 他の子たちは、みんな連れ立って来てるじゃない」
 たしかに、この歳くらいの子供が来るときは、親子か、友達同士で来る連中が多かった。一人で入り浸ってるのはこの坊主だけかもしれない。
「う〜ん、なんでかなぁ。たぶん、今、みんな仕事してるから」
「おしごと?」
「うん。レキはオールドホームで。ネムは図書館。ヒカリはパン屋さんで、カナが時計屋さん。みんな、働いてるんだ」
「クウははたらかないの?」
「みんな、『まだクウは小さいから』って言って、働かせてくれないんだ。自分たちばっかり、ずるいよね」
「う〜ん、よくわかんない」
「そうだなぁ……、仲間外れは嫌、って言ったらわかる?」
 おいおい、そりゃまるっきり子供の考えだよ。と言いそうになって慌てて口をふさぐ。いまあの坊主と話してるのはチエで、こっちはただのカフェのマスターだ。というか、立ち聞きしてるなんてばれたらチエに何言われるか分かったもんじゃない。
「うん。チエも仲間外れは嫌だな」
「あ、でも、他にも友達いるよ」
「そうなの?」
「うん。ここに」
 そう言ってチエの方を指さす。
「チエちゃんと」
 それから次に指さしたのは……俺?
「おじさんも、友達だよっ」
「俺もかい?」
「うん!」
 って、ここで返事しちまったらチエたちの話を聞いてたの、丸分かりじゃないか。
 でも、その事にチエも坊主も気がつかなかったようで、二人とも笑っていた。そうだな、ここは笑っていい場面だ。
「おとうさん、なにヘラヘラ笑ってるのよっ! お客さん来てるじゃない!」
「お、おっと。いらっしゃいませ」
 まったく、キツイところは誰に似たんだか……。

「おっはよー、おじさん!」
「おう、坊主。今日は機嫌いいな。なにかいい事でもあったのか?」
「うん! 妹ができたんだ!」
「妹?」
「妹って言っても、わたしよりおっきいんだけどね……えへへ」
「ああ、ようするに、新しい仲間──新生子が生まれた、ってことかい」
「そうそう、それそれ!」
「そいつはおめでとう」
 そんな話をしながら、いつもの豆のスープを竹でできた容器に入れる。ふたを閉じて、きつく縛ったら、布でくるむ。
「よし、今日はめでたい日だからな。おごりだ」
「ホント!? ありがとう!」
 坊主にスープを渡す。浮かれて落っことしやしないか心配だ。
 と、スープを受け取ったはしゃいでいた坊主が、突然おとなしくなった。
「ん、どうした?」
「うん……妹ができるなんて初めてだし、それに自分よりおっきな妹なんて……。仲良くなれるかな、って思って……」
 こいつと仲良くなれないやつ、ってのはよっぽど嫌なやつだと思うが。
「大丈夫だろ。坊主は、うちのチエとも、俺とも仲良くなれたんだから」
「そうかもしれないけどさ……。みんなが、『妹ができるんだから、もう少し大人にならないと』って言うんだ。おじさんは大人でしょ? どうやったらいいの?」
「そうだな……。まずは、豆のスープだけじゃなくて、うちのコーヒーも飲めるようにならないとな」
「やだ。あれ苦いもんっ」
 坊主は、ベーと舌を出した。以前一度、コーヒーを注文されたことがあったが、砂糖もミルクも入れないで飲んだもんだから、ひどく苦かったらしく、一口で飲むのをやめてしまったことがある。それ以来こいつはコーヒーを飲んでいない。
「そうじゃなくって!」
「ははは。悪い悪い。だけどな、そう変に考え込む必要は無いだろうと思うんだよ」
「?」
「その妹って子は、坊主のことを見て育つわけだ。だから、坊主はそいつに恥ずかしくないようなことをすればいいのさ」
「そういうものなの?」
「ああ。父親歴八年の俺が言うんだ。間違いない」
 大人になったから、結婚したから、父親になったから、突然自分が変わるなんてことは無い。ただ、大事な人に恥ずかしくないよう生きていこう、そう決めただけだ。
「まずは、その子のそばにいてやりな。まだ、右も左も分からなくて不安だろうから。そうして、少しずつ、いろんなことを話していけばいいさ」
「うん! ありがとう、おじさん!」
 そう言うと、坊主は待ちきれないとばかりに全力で走り出した。今度こそ、スープを落っことしやしないか、それが心配だった。

- to be continued -

 この続きは、コミックマーケット66にて頒布予定の同人誌 「どこまでもいける翼とともに」にて掲載します。


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