ガンパレード・マーチ SS
君が望むガンパレ

告白編

「あなたの事、好きです。…それだけです」
「そう言ってくれると嬉しいな。うん。はい。イエス」

その日は、朝から機嫌が悪かった。理由は二つある。
がばっ。校舎裏を歩いていると、突然後ろから抱きつかれた。
「よ〜ぉ、速水。昨日、告白受けたんだって?」
「……瀬戸口君……」
「なんだなんだ。盛大にため息なんかついて。新たな愛が生まれたってのに、そんな顔してちゃ愛も逃げていくぞ?」
「……なんで知ってるの?」
 瀬戸口君は抱きついたままニヤニヤ笑うだけで、答えようとしなかった。
「おーっ、速水はん。森ちゃんの告白受けたって、ホンマかー?」
「……なんで、加藤さんまで……」
「ふふふ、加藤情報産業(株)をなめたらあかんで〜。で、なんて答えたん? なぁなぁ?」
 とりあえずは無視だ。と、向こうから近づいてきたのは……中村君だ。
「よお、森と付き合い始めたってほんとか? かー、うらやましかー。俺も彼女ほしー」
 ……無視無視。と、横から袖を引っ張られた。ののみちゃんか?
「ねぇねぇ。あっちゃんとせーかちゃんはらぶらぶ、ってほんとですか?」
「……なんでののみちゃんまで……」
 不機嫌の理由のひとつがこれだ。なんで、昨日の今日でもうバレバレなの? しかも、尾ひれ付いてるっぽいし……。
 そして、もうひとつの理由は。
「あ、おおはよう、速水君」
「お、おはよう、森さん……」
 森さんは僕に気づくと、顔を真っ赤にして、それでも嬉しそうに話し掛けてきた。
「えっと……教室まで、一緒に行こうか?」
「え……は、はい!」
 真っ赤な顔のまま、笑顔を向けてくる森さん。たったこれだけのことで、こんな顔されたら……男冥利に尽きる、ってもんなんだけど……。
(まさか、言えないよなぁ……。徹夜でプレイしていて、つい○ボタン押しちゃった、なんて……)
 教室の前で手を振って森さんと別れる。僕も教室に入って、席に座って、ため息をついた。
「朝からため息などつくな。気が削がれる」
「……芝村……」
「それが、告白を受けた者の表情か? それとも、まさか、断ったのではあるまいな?」
「………………もしかして、芝村の陰謀?」
「なんのことだ。私は精華から告白すると話を聞いただけだぞ」
 どういうきっかけがあったのかは知らないけど、もともと森さんと仲が良かったのは芝村なんだ。確かに、森さんは3番機の整備士だから、話す機会が全く無かったわけじゃないけど、なんかちょっとよそよそしくて、むしろ嫌われてると思ってたんだけど……。
「おらぁ、授業始めるぞ! とっとと席につけー!」
 銃を振り回しながら、先生が教室に入ってきた。
「おらぁ、速水! 浮かれてんじゃねーぞ! 人より先に幸せになりやがって、こんちくしょー!!」
 ズダダダダダとマシンガンの発射音が響き渡る。
「うわぁっ、だからってほんとに撃たないでください!!」
「……窓ガラス……また、修理……」
 しかし、芝村でも無いとすると、誰が噂を振りまいたんだろう……。

「速水君、もう、仕事、終わり……?」
「うん。森さんは?」
「私も、終わりです……」
「そう……じゃ、じゃぁ、一緒に帰ろうか?」
 二人で歩く帰り道。だけど、二人の間に言葉はなかった。一歩一歩、歩くたびに、重苦しい空気が積み重なっていく。こういうときは何か話さないと……えーと……。
「速水君……って、休みの日って、なにしてるの?」
 先に口を開いたのは森さんだった。
「休みの日か……。最近、休み返上で仕事だからなぁ……」
「そ、そうよね……ごめんなさい」
 だぁっ、いきなり話終わらせてどうするんだよ!
「あ、で、でも、たまに休みのときは、たいてい家でごろごろしてるかな」
「そ、そうなんだ……」
「あと、お菓子作ったり、その材料買いに、買い物に行ったり……」
「お菓子? いいなぁ……。私、料理ってあんまり得意じゃないから……」
 …………。
 また沈黙が続く。
「森さんは、休みはなにしてるの?」
「え、えっと……本、小説読んだり、あと、絵を描いたり……」
「へぇ。どんな絵を描くの?」
「えっと……油絵。風景画を描くのが好きだから……」
「風景画かぁ……今度、見せてよ」
「え、で、でも……下手だし……」
「下手でもいいじゃん。僕だって絵の事、よく分からないし」
「でも……ごめんなさい……」
 ……………………。
 再び、重苦しい沈黙。
「ぁ、じゃぁ、私、こっちだから……」
 Y字路に突き当たったところで、森さんが左を指した。僕の家は右。
「う、うん。じゃぁね」
 どこか釈然としない気持ちを抱きながら、そこで僕たちは別れた。

「厚志」
 バンと机を叩いて、芝村が僕の目の前に立ちはだかった。椅子に座ってる僕からは、丁度彼女を見上げる格好になる。
「……もうすぐ、授業、始まるよ」
「貴様、それでも男か」
「どうせ男っぽくないよ、僕は」
「恋人と一緒に帰ったのなら、彼女の家まで送り届けるのが筋というものだろう。特に、もう暗くなった時刻では」
「なんでそんなこと知ってるのさ?」
「精華から聞いた」
 思わず机に突っ伏す。
「まったく……精華もなぜよりによってこんな不甲斐ないやつを……」
「悪かったね。甲斐性なしで」
「とにかくだ。この埋め合わせは必ずしておくのだぞ。よいな!?」
「分かったけど……なんで芝村がそんなことを? しかも、やけに細かいし」
「な、そ、それは、友を気遣って何が悪い?」
「やけに指示が細かいのは? ひょっとして、芝村って、経験豊富?」
「な、なぬを、いや、何を言う! 経験とはなんだ! 経験とは……」
 なんで、そこで真っ赤になるんだ、この人は。
「と、とにかくだ! 精華のことを大事にしなかったら承知せぬぞ! そなたも好きだから付き合っているのであろう!」
 そう言い放つと、芝村は足音を上げながら教室から出て行った。
「好きだから、か……」
 普通はそうなんだろうなぁ、やっぱり。
 僕は、森さんのことが、好きなんだろうか。
 嫌いじゃない。それはわかる。笑顔を向けられるとうれしい。他に好きな人がいるわけでもない。
 でも……何か……。
(っていうか、あの馬鹿OVERSが介入なんてしてこなけりゃ……)
 思わず持っていた鉛筆をぶち折ってしまい、隣で寝こけていた滝川に突き刺さって、大声をあげて飛び上がった彼に本田先生のマシンガンが炸裂した話は、また別の機会にしよう。

 二人で歩く帰り道。この間と同じく、会話は途切れがちだった。気が付けば、例のY字路。
「じゃ、じゃぁ、ここで……」
「ぁ、森さん……家まで……送っていくよ。もう暗いしさ」
「そんな……いいですよ。もうすぐだし」
 そう言うと、森さんは振り返り、左の道へ歩きだした。
「あっ、待って……」
 僕は彼女を追いかけて、自分の右手で、彼女の右手を握りしめた。
 その時。
「ぇ……きゃぁぁっっっ!」
 一瞬、何が起こったのかよく分からなかった。ただ分かるのは、彼女が今、まっすぐ向こうに駆けている、ということだけだ。
 我に返り、右手をじっと見てみる。森さんの手の、柔らかく温かい感触ははっきり覚えている。
「……手を、振り払われた?」
 その瞬間を思い出してみる。去ろうとする彼女の右手を僕がつかんだ。彼女は振り向き、僕の顔を見て、次に自分の右手を見て、もう一度僕の顔を見て、そして、顔を真っ赤にして、僕の手を振り払い、踵を返して、走って行った……。
「なんで?」

 家に帰っても、さっきの事が頭を離れなかった。ベッドに寝ころがりながら、もう何度目になるのか、右手を見つめて、ため息をつく。
「ああ、もう!」
 はねあがり、頭を振る。きっと森さんは、びっくりしただけなんだ。うん。
 シャワーでも浴びてすっきりしよう。そう思った時、電話が鳴った。
「もしもし。速水ですけど」
「ぁ……あの、森です」
「森さん!?」
「あ、あの、夜遅く、ごめんなさい……起きてた?」
「うん。いつもこれくらいまでは起きてるから。……どうしたの?」
「今日は……ごめんなさい……」
「え? い、いいよいいよ。気にしてないから……」
「違うんです」
「え?」
「私……速水君のそばにいるだけですごくドキドキしちゃって……。ずっと……この気持ちを伝える前から……ずっと……好きだった」
「森さん……」
「速水君の機体の整備ができるのがすごく嬉しくて、でも、話したら、自分でも何を言い出すか分からなくて、だから、わざと話さないようにして……」
そうか……最初のころの、そっけない態度って……。
「だから、こうして、速水君が私の気持ちを受け取ってくれたのがすごく嬉しくて……速水君といるだけで……楽しかった……でも……」
「え?」
「速水君は……私と一緒にいて、楽しい?」
「えっ……」
「私みたいなしゃべるの下手で、理屈っぽい子と……一緒にいて、楽しいですか?」
 それは……でも、楽しくない、なんて、言えるわけないじゃんか。自分の事を好きだと言ってくれる女の子を、傷つける事はしたくない。
「た、たのしいよ。もちろん」
「嘘……」
「………………」
「速水君……ウチの事、好きですか?」
 どきん。
「どうして……私の告白を、受けてくれたんですか?」
「それは…………」
「よく知りもしない人からの告白を、どうして……?」
「それは…………」
「………………」
「………………」
「………………」
 沈黙が続く。なんて言えばいいんだ? 本当の事を言うのか? でも、それは……。
「……ごめんなさい。お休みなさい」
「あっ、まって……」
 ガチャン。電話はこちらを待つ事なく切れた。
「森さん……」
 ……「ウチ」って、どこの生まれなんだい、森さーーーーんっっっっ!!

 次の日は日曜日。といっても、特に用事は入ってないし、士魂号の調整でもしておこうか……とも思ったけど。結局、街をぶらぶらしていただけだった。
 夜も7時を過ぎた頃。僕はいつのまにか学校の前にいた。
「森さん……いるかな……いるわけないか……」
 ゆっくりとハンガーに向かう。階段を上って、3番機のコクピットのそばに行くと、人影が見えた。
「誰だ?」
 向こうもこちらに気づいたらしい。
「その声は……芝村? なにやってるのさ、こんな時間まで」
「厚志か……。いや、なんでもない」
「何でもって……なに、この匂い。あれ、なんか……」
「み、見るでない!」
 コクピットのあたりに、ひどい落書きがされていた。見ると、中にもだ。全て、芝村に対する悪口のようだった。見ているだけで気分が悪くなってくる。
「どうしたの、これ!?」
「知らん。休憩をして、戻ってきたらこうなっていた」
「知らんって……犯人は? 心当たりないの?」
「心当たりならありすぎるほどあるぞ。……芝村というのは一般的に憎まれるものだからな」
「そんな……」
「だいたい。本当に我らのやり方が気に食わぬのなら、堂々とそう言えばいいものを。陰口を叩くか、せいぜいこの程度だ。そのようなものをいちいち相手にしていたら、いくら芝村といえど身が持たぬ」
「…………」
「士魂号を壊されたとでも言うのならともかく、この程度なら別にかまわぬだろう。我らは我らに敵対せぬものには寛大だからな」
「じゃぁ……なんで、溶剤なんか持ち出して、雑巾につけてるのさ」
「なっ、こ、これは……そ、そう!ずいぶんと汚れているようだったからな!やはり綺麗なほうが気分がよいというものであろう!」
「うん、そうだね」
「な……」
「僕も、手伝うよ。二人でやったほうが早いでしょ。あと、溶剤つけた雑巾なんか、素手で持っちゃだめだよ。手が荒れる」
「ひ、人の手など気にするな。だ、だが、効率についてはそなたの言うとおりだな。では、頼むとしよう」
「僕もがんばらないとね」
 1時間ほどして、ようやく落書きを消すことができた。
「終わったね……。どうする? 帰る?」
「ああ、そうだな」
 ハンガーから出て、校門に向かって歩く。とっくに日は落ちて、街灯の細い明かりだけが時々行く先を照らしていた。
「そういえば……なぜ、今日の昼間は来なかったのだ? おかげで士魂号の調整ができんかったではないか」
「ご、ごめん……」
「や、やはり精華と、で、でぇとだったのか?」
「デェト? い、いや……って、森さんも来てなかったの?」
「そうだぞ。あの真面目な精華が来ていなくて、厚志も来なかったからな。皆、その、でぇとだと話しておったのだが……」
「…………」
「何か、あったのか?」
「いや……森さんからは、昨日の夜とか今日とか、なにか話した?」
「いや。精華とは昨日、学校で別れて以来あっておらん」
 じゃぁ、芝村にも話していないんだ……。
「精華は……私の親友たる人間だ」
「はい?」
「真面目で、几帳面で。なにより人のことを正しく見る目をもっている。私が芝村と知っても離れることなく、普通に接してくれた。それは、今まで無かったことで、正直、嬉しかった」
「…………」
「だからな。精華が厚志のことを、そ、その……好きだということを聞いたときは、ひどく驚いたぞ」
「そんなに驚かなくても……」
「おまえも、私の友の一人だからな……。だから、その友同士が好き合うのは、良いことだと……思った」
「芝村……」
「精華は、よほど嬉しかったらしいな。傍目で見ても、雰囲気がそれまでとはまるで違っていた。始めて会った時から思い続けていた相手と気持ちが通じ合った、そう言っていた」
「始めて……?」
 森さんとの出会い。たしか,士魂号を運んできたときだったと思う。でも、その時、何を話したのか、僕は覚えていない。でも、彼女はきっと覚えてるはずだ。全部。その時から彼女の気持ちは、ずっと僕を見ていて。でも、僕はそんな彼女の気持ちをないがしろにしようとしている……。
 彼女は、告白するまで、どんな気持ちだったんだろう。そして、今、どんな気持ちなんだろう。それを思うと、胸が締めつけられる。いや、この程度じゃ済まないはずだ。
 僕は……彼女の気持ちに応えたい。彼女に、思いを伝えたかった。
「どうした、厚志。ぼーっとして」
「ありがとう。芝村」
「何?」
「いや、なんでもない。じゃぁ、また明日、学校で」
「ああ」

『屋上で待っています
                                 速水厚志』

「来て……くれたんだ」
「…………」
「話したい事があるんだけど……いいかな?」
「……聞きたく、ありません」
「頼む……」
「嫌……です」
 始めて会った時のようなそっけなさ。でも、今はちゃんと彼女の気持ちを知っているから。
 1歩、彼女に近づく。彼女は動かなかった。もう1歩。もう1歩。手を伸ばせば届く距離に。
「……ごめん」
「っ……」
 彼女が息を飲むのが分かる。
「いまさらかもしれないけど……その、僕の事好きになってくれないかな。……駄目かな」
「えっ?」
「君の事が……好きです。好きになりたい。だから……」
「速水君……」
「どうしても、ここで伝えたかったんだ。あの時、いい加減な気持ちで応えてしまった、この場所で」
「私は……ずっと……今でも……好きだから……」
 そっと、森さんを抱きしめる。そんな行動が、なにも考えずにできることに、少し、驚いた。背中に、森さんの腕が回される。僕の腕も森さんの背中に。
 僕よりほんのちょっと低い位置に、森さんの瞳があった。涙で濡れた瞳が、ゆっくりと閉じられる。僕も、目を閉じて、彼女に顔を近づけた。唇に、温かいものが触れる──。
「いやぁ、今日は熱いですねぇ!」
 ビクゥッッッッッ!!!
「ほんと、アッツくて、プールにでも入りたい気分だわ」
 ビクビクゥッッッッッ!!!!
「まったくであります! ど、どうですか、今度ご一緒にプールなど!」
 ビクビクビクゥッッッッッッッ!!!!!
 ゆっっくりと、後ろをふり返る。そこにいたのは

奥 様 戦 隊 善 行

 こ、こいつらか! 熊本中のカップルの天敵! 神出鬼没! 変幻自在! あのソックスハンターよりもたちが悪いと言われているという…………。
「なにやってんですか、あんたたちはーっ!!」
 彼らの元に走り出した途端、後ろで、バタン、と大きな音がした。
「うわぁっ、森さん! しっかりして!」
 森さんは、真っ赤な顔のまま、屋上の床に突っ伏して、涙を流していた。
「ぅぅぅぅ……うち、もうおヨメに行けねぇだ………」
「森さん、気を確かに! しっかりして!」
 気がつけば、あの3人組の姿形はどこにもなく。
 そして次の日、また本田先生のマシンガンが教室中の窓ガラスをブチ割るのだった。

── to be continued...? ──

あとがき


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