アカイイト SS
くちびる きずあと あまいいき

「おなか空いたな〜」
 日も落ちて暗くなった家路を、わたしはとぼとぼと歩いていた。今日は、突発で委員会の仕事が入ってしまったので、すっかり帰りが遅くなってしまっていた。歩く速度を速めれば、早く夕ご飯を食べられるのはわかってるんだけど、どうにも気力がでない。
「あー、やっと着いたよ〜」
 体感時間ではいつもの倍くらいかかったかな。ようやくわたしの住んでいるアパートが見えてきた。
「今日のご飯は何かなー」
 ご飯が近くにあることが分かると、わたしの足どりは自然と早くなった。自分でもいい加減な性格だとは思うけど。そこは若くて健康な女の子。食欲には勝てないのです。
「ただいまー、柚明お姉ちゃん」
「おかえりなさい、桂ちゃん」
 アパートの部屋のドアを開けると、そこにはわたしが帰ってくるのを知っていたかのように、柚明お姉ちゃんが立っていた。
「今日は遅かったのね。どうしたの?」
「うん。突然、委員会の仕事が入っちゃって。もうおなかペコペコだよ〜」
「はいはい。すぐ用意するわね」
 そう言って、お姉ちゃんは台所に向かった。わたしも着替えるために自分の部屋に向かう。
 着替え終わって居間に戻ったときには、すでにテーブルの上に、二人分の食事が並べられていた。ほかほかのご飯に、野菜炒め、胡瓜とワカメの酢の物、冷や奴にお吸い物。
「それじゃ、いただきます」
 さっそくご飯を頬張る。温かくて柔らかくて、ほんのり香る甘みが口の中を満たしていく。もぐもぐ。ごくん。続いて野菜炒め。まだ温かい炒めものを口に運ぶ。こちらも、食べやすい大きさにちょうど良い味加減。
「やっぱり柚明お姉ちゃんの料理は美味しいよぅ」
「そう? ありがとう」
 もう一度ご飯を食べる。おなかが空いていることもあって、いつもより食べるペースが少し速くなる。
「ほら、桂ちゃん。そんなに慌てて食べちゃダメよ」
「だって美味しいんだもん」
 次々と柚明お姉ちゃんの手料理を口の中に運んでいく。でも、やっぱり、ご飯はゆっくり食べるべきだったんだ。
「ん!!」
 突然、口の中に激痛が走った。
「どうしたの!? 桂ちゃん」
 わたしの様子を見て、柚明お姉ちゃんがガタっと立ち上がる。わたしはといえば、口の中にものを詰め込んだまま、低くうめくことしかできなかった。
「桂ちゃん! 大丈夫!?」
 無理矢理、口に入っていたものを飲み込む。
「ふぅー」
「大丈夫? 桂ちゃん。なにか変なものでも入ってた?」
 わたしは首を横に振ると、口を手で抑えながら言った。
「口の中、噛んだ……」
 柚明お姉ちゃんの目が一瞬大きく開かれた。でも、その目はすぐにいつもの優しい瞳になる。
「あらあら……。だから、ゆっくり食べなさい、って言ったのに」
「ごめんなさい……」
 今度から気をつけます。
「どのあたり噛んだの? お姉ちゃんに見せて」
「んっとね、下唇の内側、右の方」
 わたしは口を開けて、手で少し唇をめくり返してみた。
「あら、ほんと……。血が出てるわ」
 柚明お姉ちゃんに言われて、わたしは傷ついたあたりを、舌で舐めてみた。料理とは違う、慣れない塩味が舌に広がる。
「うぅっ、ほんとだ……」
 やだなー。口の中の傷って、治りにくいんだもん。
「……ねえ、桂ちゃん」
 柚明お姉ちゃんが、ささやくような声でつぶやいた。視線を声のした方に向けると。
 わたしの視線のすぐ先に、柚明お姉ちゃんの顔があった。
「わたしが、治してあげましょうか」
 柚明お姉ちゃんの両手がわたしの頬を包む。温かくて柔らかい手。
「わたしの《力》なら、止血も、傷を治すことも、簡単なのよ……」
 そう。わたしは知っている。柚明お姉ちゃんが《力》を使えることを。そして、その《力》の源となる、贄の血のことも──。
 お姉ちゃんの手にはさまれた頬が熱くなる。心臓の鼓動が速くなるのが分かる。なんだか、余計に出血がひどくなりそう。
「うん、いいよ……」
 わたしはゆっくりと目を閉じる。お姉ちゃんの温かい吐息が、近づいてくる。
 そして、私の唇に、柔らかなお姉ちゃんの唇が触れた。
「んっ……」
 言葉とも吐息ともとれない音が、どちらとも無く出る。
 お姉ちゃんが、少し強く唇を押しつけてきた。わたしの吐き出す息が、お姉ちゃんの中に吸い込まれていく。そして、わたしが吸うのはお姉ちゃんの甘い吐息。
(柚明おねえちゃん……)
 なんだか意識がぼんやりとしてくる。酸素が足りてないのかもしれない。
「んっ!」
 熱いものがわたしの口の中をうごめいた。
 それが、柚明お姉ちゃんの舌だというの事に気がつくのに、少し時間がかかる。
 やがてお姉ちゃんの舌は、私の傷痕にたどり着くと、そこを丁寧に舐め始めた。
「んんっ! あぁっ……」
 くぐもった声は、お姉ちゃんの口でふさがれて、外には出て行かない。
 お姉ちゃんの舌が動くたび、傷が熱く火照る。わずかな痛みと、とろけるような心地よさ。
 やがて、お姉ちゃんの唇が、そっと私の唇から離れた。どちらのものかも分からない透明な液が、静かに零れ落ちる。
「はぁ……」
「あぁ……」
 まだ心臓がドクドクと早鐘を打っている。夢心地の中、それだけが強く感じられた。
「どう? まだ痛む?」
 問いかけるお姉ちゃんの目も、どこかトロンとして、艶っぽい。
 本当は、もう痛みは無くなっていたけど。わたしの火照った体は、まだそれを欲していた。
「ううん、まだ、痛むの。だから、ね……?」
 柚明お姉ちゃんは、頬を染ながらこくりと頷くと、再びわたしに口づけた。
「あぁ……」
 今度はすぐに舌が伸びてくる。わたしも舌を伸ばし、それに絡ませる。
 ぬめぬめとした軟体動物が、わたしの口の中を犯していく。強い刺激は、すぐに快楽へと変化して、わたしの体の自由を奪っていく。
 気がつけば、わたしの体は、畳の上に横たえられていた。
 お姉ちゃんは唇を離すと、わたしの上に覆い被さるように体を乗せてきた。
 ふと視線をずらすと、テーブルの上にまだ食べかけの料理が乗っているのが見えた。おもわず笑みがこぼれる。
「なぁに? どうしたの、桂ちゃん」
「ん……ご飯、食べ損なっちゃったなあ、って」
 柚明お姉ちゃんも、テーブルの方を見ると、同じようにクスリと笑った。
「そのかわり、わたしをいっぱい味合わせてあげるわ」
「お姉ちゃん……うん。お姉ちゃんも、わたしを、いっぱい、感じて」
 まだ、夜は長いんだから。

- fin -

あとがき


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