ARIA The ANIMATION/Natural SS
light song

『灯里さん。このあいだ、ネットですごく古い歌を見つけたの。それがすごく素敵な歌だったの。だから、灯里さんにも送りますね』
 アイちゃんからそんなメールを受け取ったのは昨日の夜のこと。添付されたファイルから流れてきたのは、聞いたことのない歌。でも、それはとても綺麗で、わたしとアリア社長は、しばらくその歌声に酔いしれていました。
「綺麗な歌声ですね、アリア社長」
「ぷいにゅ」
「それに、曲もすごく素敵……」
「ぷいにゅい」
「わたしも、こんな風に歌えたらなぁ……」
 わたしは、何度かその歌を聞いた後、一緒に歌ってみることにしました。
「ラ、ラ、ラララ、ラ、ラララ」
 でも、やっぱりこの歌手さんのようには歌えません。ちょっと残念でした。

「それじゃ、今日はこのあたりで。お疲れー」
「また明日です、灯里先輩、藍華先輩」
「うん、藍華ちゃん、アリスちゃん、またねー」
 今日も、合同練習。夕方になったので、ここでお別れ。藍華ちゃん、アリスちゃんとは別の水路を行きます。
 空にはオレンジ色の夕焼け。ゴンドラの上から街を見上げると、家路を歩く人たちの影。昼間はにぎやかなネオ・ヴェネツィアの街が、少し見慣れない景色に見える瞬間。わたしの好きな時間の一つ。
 ふと、昨日聞いていた歌が、頭の中に流れ始めました。何度も聞いたので、頭の中に染み込んじゃったみたいです。わたしは、少し楽しくなって、歌を口ずさみ始めました。
「ラ、ラ、ラララ、ラ、ラララ」
 ゴンドラが水を切る音と、私の歌声のデュエット。声は水と空に吸い込まれていくようです。
 そうやって、歌いながらゴンドラを漕いでいると、どこからか、もう一つの歌声が聞こえてきました。
「あれ? この声は……」
 わたしはその声の持ち主が誰か、すぐにわかりました。それよりも驚いたのが、その歌が、わたしの歌っていたと同じ歌だったということ。
「ラ、ララララ、ラ、ラ、ラ……」
 歌が終わったところで、わたしは、その歌声の持ち主のそばへとゴンドラを進めました。
「こんにちは、アテナさん!」
「こんにちは、灯里ちゃん」
 歌声の持ち主は、アテナさん。オレンジぷらねっとで働いている水先案内人(ウンディーネ)で、「水の三大妖精」の一人。その歌声は、「天使の歌声」と呼ばれるほど。
「びっくりしました。アテナさん、あの歌ご存じなんですか?」
「わたしこそびっくりしたわよー。どうして灯里ちゃん、あの歌を知ってるの?」
「えっとですね、昨日アイちゃんから送られてきたメールに付いてたんです」
「……ねえ、その歌、わたしにも聞かせてくれない?」
「はひ、いいですけど」
 わたしは、アテナさんと一緒に、アリアカンパニーへと向かいました。その間、アテナさんはずっと無言でした。顔つきも、いつになく真剣に見えます。
 やがて、わたしとアテナさんのゴンドラは、アリアカンパニーに到着しました。
「どうぞ、こちらになります」
「ありがとう、灯里ちゃん……キャッ」
 どたん! と大きな音をたてて、アテナさんが転びました。どうやら、ドアの段差でつまずいたようです。
「だ、大丈夫ですかっ?」
「うん、大丈夫だいじょうぶー。……ちょっと痛いけどー」
 アリスちゃんにも聞いてるけど、この人はゴンドラを降りると人が変わったみたいに注意力散漫になります。
「気をつけてくださいね」
「うん、気をつけるー」
 わたしの部屋にたどり着くと、わたしはパソコンの電源を入れました。パソコンはすぐに起動して、昨日見ていたメールを表示してくれます。
「ほら、この歌ですよ」
 メールに添付されていたファイルを開くと、パソコンの小さなスピーカーから、歌声が流れてきました。
「綺麗な歌声ですよねー、って、アテナさんっ?」
 隣に座っていたアテナさんを見ると、アテナさんは涙をぽろぽろとこぼしていました。
「あ、あの、アテナさん……?」
「あ、ごめんね、灯里ちゃん。この声を聞いたら、つい……」
「アテナさん……」
「この歌を歌ってるのはね、わたしのひいおばあちゃんなの」
「えーっ!?」
「ほら、歌手名の所、見て」
 アテナさんが指さした画面には、アメリア・グローリィという名前が。
「アテナさんのひいおばあさんって、歌手さんだったんですか?」
「うん。そしてね、この歌は──わたしが、一番最初に覚えた歌」
 そう言うと、アテナさんは、パソコンから流れる歌に合わせて、歌い始めました。本当だったらあるはずのない、時を超えた二人の合唱。それは、涙が出そうなくらい美しくて。
 歌が終わると同時に、わたしは思わず拍手をしていました。
「ありがとう、灯里ちゃん」
「すごい……綺麗です」
「ありがとう」
 アテナさんは、私の頭を撫でると、
「ひいおばあちゃんはね、わたしが物心ついたころにはもう、あまり声が出せなくてね。でも、わたしはひいおばあちゃんが大好きだった。だから、こうしてひいおばあちゃんの歌声を久し振りに聞けて、すごく嬉しかったわ」
 アテナさんは、もう一度、わたしの頭を撫でて、「ありがとう」と言いました。
「そういえば、灯里ちゃん、この歌のタイトル、知ってる?」
「ほへ? そういえば……知らないです」
「light song、って言うのよ。灯里ちゃんの歌ね」
「へっ?」
「だって、light song……『あかりのうた』でしょ?」
「は、はぁ……」
 自分の台詞がよっぽどおかしかったのか、アテナさんはプルプルと体を震わせています。もし晃さんがいたら、「くだらないギャグ禁止!」とか言われちゃいそうです。
「でも……そんな、思い出の歌をわたしなんかが歌っていいんでしょうか?」
「え?」
「だって、わたしは、まだアテナさんみたいに上手に歌えないし……」
 アテナさんはそんなわたしに、ゆっくりと頭を横に振りながら言いました。
「誰にも、歌を歌っちゃいけないなんて言うことはできないもの。それに、歌にとっていちばん悲しいのは、誰にも歌ってもらえなくなることなのよ」

「それじゃ、行きましょうか、アリア社長」
「ぷいぷいにゅー」
 次の日の朝、わたしはいつも通りゴンドラにアリア社長を乗せて、練習に向かいました。空は生憎の曇り空。雨は降らないみたいだけど。
 オールを漕いで、いつもの待ち合わせ場所へ向かう途中、ふとわたしの頭の中に、あの歌が流れ始めました。
「……歌えば、気分は晴れるかもしれませんね」
 大きく深呼吸して、吐き出す息に音を乗せていきます。
「ラ、ラ、ラララ、ラ、ラララ」
 この歌が誰かの心に届きますように。そして聞いた人の心に光が射すように。そんなことを思いながら。
 ふと空を見ると、雲が流れていくのが見えました。そして、雲の隙間から光が射すのが。
「綺麗ですね、アリア社長」
「ぷいにゅー」
「歌が、空に届いたのかもしれませんね」
「ぷいにゅ」
「なんでだろう……私の心まで、光で満ちあふれてるみたいです」
 涙がこぼれてしまいましたけど、ちっとも気になりませんでした。
 light song──光の歌。それは、歌っている人の心にも光が射す、そんな歌なのかもしれません。

- fin -

あとがき


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