プロローグ
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
さわやかな朝の挨拶が、澄みきった青空にこだまする。
朝の空気は日ごとに涼しくなるのを感じる。でも、それは夏のだれきった朝の空気にくらべればとても気持ちいいもので。
祐巳がその子に出会ったのは、そんな朝だった。
「あれ?」
教室に行くために階段を上ろうとした祐巳の目に入ってきたのは、一人の小柄な少女だった。ダンボール箱をいくつか両手で抱えながら、階段を上っている。荷物が重いせいか、または積みあがったダンボールが視界をふさいでいるせいか、ふらふらしていて見るからに危なっかしい。
「よいしょっと……わっ、わっ、わっ!」
女の子がバランスを崩す。祐巳はとっさに後ろから彼女を支えようとした。
「はわわーっ! 落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる」
「ねぇ……いつまで落ちてるの?」
「はぇ?」
女の子が間抜けな声を出す。祐巳もよく間抜けな返事をして祥子さまにしかられているが、それにそっくりだ。
祐巳は支えた腕を少し前に出す。ようやく女の子は自分が落ちていないことに気づいたらしい。バランスを取り戻した彼女は、再びゆっくりと階段を上りだした。
踊り場についたところで、祐巳は彼女の抱えていたダンボール箱を一つ、取り上げた。
「あ、あのっ……?」
「一人でこんなに運ぶの、大変でしょ? 手伝うよ」
「い、いえ! そんな! かまいません!」
「こんなにいっぱい持ってたら、今度こそ落っことしちゃうよ」
祐巳は、改めてその少女の顔を真正面から見た。見たことのない顔だ。ずいぶん小柄なのは1年生だからだろうか。いや、1年生でも大きい子はいるし。ショートカットにした髪と大きな目が、ますます彼女を子供っぽく見せている。
だが、祐巳の注意を引いたのは、その耳。普通なら耳のある場所。そこに耳は無く、代わりに大きなプラスチックの角のようなものがかぶさっている。ウサギの耳のように見えなくも無い。
「ねぇ……その、耳……?」
「あぁ、これですか? 通信用アンテナなんです」
「アンテナ?」
「はい、わたし、ロボットですから」
「ろぼっと?」
祐巳は自分の目を疑った。どう見ても人間の女の子にしか見えない。……耳以外は。
「はい! わたし、HMX−12、マルチといいます!」