マリア様がみてる SS
夢見る笑顔

第2話

「ごきげんよう。ぁ、ごきげんよう」
 いつもと変わらないリリアンの朝の風景。そこで、見慣れない耳当てを付けた少女が一人、落ち葉をかき集めていた。
「ごきげんよう、マルチちゃん……何やってるの?」
「ごきげんよう、祐巳さま! はい、お掃除です! この道は落ち葉が多いんで、お掃除しておかないと」
 道の片隅には、マルチがかき集めたとおぼしき落ち葉が山になっていた。それでも、次から次へと葉は舞い降りてきて、通り道に積もっていく。
「朝から、大変だね……」
「いえ。みなさんのために働くのが私の役目ですから」
 そう言われると、祐巳には返す言葉がない。
「じゃぁ、頑張ってね……ぁ、そうだ」
「なんですか?」
「マルチちゃん、ギンナン、分かる?」
「はい。でも、ギンナンがどうしたんですか?」
「じゃぁ、ギンナンだけ別によけておいて。後できっと、喜ぶ人がいるから」
「はぁ……祐巳さま、ギンナンお好きなんですか?」
「私じゃないんだけどね。マルチちゃんは好き?」
「いえ、私は食事ができませんから」
「ぁ、そうか……」
 いくら人間そっくりでも、食事とかはできないらしい。
「じゃ、頑張ってね」
 そう言って、祐巳は教室に向かった。

 昼休み、祐巳は薔薇の館に向かうため、弁当を持って廊下を歩いていた。
「あれ? マルチちゃんと……ランチ?」
 裏庭で、マルチと野良猫のランチが戯れているのを見かけたのだ。
「猫さん、猫さん、こんにちわ」
「にゃぁ」
「今日もいいお天気ですね」
「…………」
「日向ぼっこは気持ちいいですよね。猫さんも、日向ぼっこがお好きなんですか?」
「にゃぁ」
「もうすぐお昼ですね。おなかはすいていませんか?」
「にゃん」
「そうですか」
 そう言うと、マルチはスカートのポケットをゴソゴソと手さぐりし、何かをランチの前に差し出した。
「今朝、バスの中で席を譲ったおばあさんから頂いたんですよ」
 マルチが取り出したのは、クッキーだった。
「私は食べられないので……よろしければどうですか?」
「にゃぁぁ」
 クンクン。ランチは少し匂いをかいで、一度ぺろっと舌で舐めると、勢い良くクッキーを食べ始めた。
「おいしいですか?」
 ランチは返事をせず、それでもおいしそうにクッキーを食べていた。
「……おいしい、ってどういう気持ちですか? お腹が空くってどういう感じですか?」
「にゃ」
「知りたいです。猫さんの気持ち……」

「それって変よ!」
 箸を片手に机をダンと叩きながら言ったのは由乃さん。
 由乃さんと志摩子さん、それに乃梨子ちゃんと一緒に薔薇の館で昼食を摂っている時に、祐巳がさっき見たマルチと猫の話をしたのである。で、それを聞いた由乃さんのセリフがこれ。
「そ、そうかな……?」
「そうよ。だって、ロボットが猫の気持ちを知りたいなんて変じゃない!」
「でも、好奇心旺盛なのは良いことじゃないかしら?」
 志摩子さんがなだめる様に言った。
「だって……マルチはメイドロボなんでしょ? だったらそんなことより、しっかり仕事してくれないと」
「あ、あははは……」
「まさか、計算間違いをするとは思ってませんでした」
 乃梨子ちゃんは冷静にそう言うと、紙パックの牛乳をずずっと吸った。
 そう。昨日マルチに手伝ってもらった書類。それに計算ミスがあったのだ。もちろん全部ではないけど。
「今日も休み時間、コピー機の前であたふたしてましよ。後ろで瞳子が『なんでロボットのくせにコピーも取れないのよっ』って叫んでましたけどね」
 あぁ、その様子がありありと目に浮かぶ。
「正直、どう見ても高性能なロボット、とは思えないわよね……」
「へたしたら人間の方がましかも……」
「祐巳さんはどう思う?」
「へ? 私?」
「うん」
「私は……マルチちゃんみたいなロボットがいてもいいと思うな」
「祐巳さん……」
「だって、楽しそうじゃない?」
「まぁ……退屈はしなさそうよねぇ」
「あ、そうそう。志摩子さん、朝、並木の掃除していたマルチちゃんにギンナンだけ分けてもらうよう頼んでおいたから。あとで聞いてみて」
「本当!? ありがとう、祐巳さん!」
「いや、分けてくれたのはマルチちゃんだし……」
 志摩子さんの瞳がキラキラと輝くのを、祐巳たちは苦笑しながら見ていた。

 放課後。祐巳が自分の担当区域の掃除を終わらせて薔薇の館に向けて廊下を歩いていると、廊下のモップ掛けをしているマルチを見つけた。モップで床をゴシゴシとこすってる……というか、モップで床を撫でているさまな感じだった。マルチの他に生徒は見当たらない。
「マルチちゃん、一人なの?」
「あ、祐巳さま。はい。他の方々は学園祭の準備が忙しそうでしたので」
「だめじゃない。ちゃんと割り当てられた分はやらないと」
「いえ、少しでも他の方のお役に立ててるんですから」
「だって、マルチちゃんだって、山百合会の手伝いあるわけでしょ?」
「え?」
「今はほんとに忙しいからね。少しでも人手はほしいんだ。マルチちゃん、モップ、もう一本無い?」
「え、あ、教室の掃除用具入れに……」
 それを聞くと、祐巳は1年生の教室に入って掃除用具入れからモップを取り出した。
「あの、祐巳さま……?」
「私も手伝うよ。二人でやったほうが早く終わるでしょ?」
「そ、それはそうですけど……あの、わたし、また山百合会のほうにお邪魔してもよろしいのでしょうか?」
「え? そりゃそうよ。それとも、手伝うの、嫌?」
「い、嫌だなんてとんでもない! ただ、わたし、昨日も随分と間違いをしてしまったみたいですし……」
 うなだれるマルチ。祐巳はその肩を軽くたたいた。
「失敗なんて誰だってするよ。特に、マルチちゃんは昨日初めて山百合会のお仕事、手伝ったんだから」
「で、でも……」
「私もね、入った頃はよく間違えてお姉さまに怒られたりしたのよ」
「紅薔薇さまに、ですか?」
「そ。でもね、ちゃんとやり方も教えてもらったから。だから今ではそれなりに仕事をこなせるさまになってきたんだ。マルチちゃんも、分からないことあったら聞いてよ。私だけじゃなくて由乃さんや志摩子さんや乃梨子ちゃん、黄薔薇さまやお姉さまでももちろんいいわ。それより、いまはさっさとここの掃除、終わらせちゃお」
「は、はい!」
 そしてモップをかけ始めた二人だったが。
「だめよ、マルチちゃん、モップがけは、もっと力を入れてやらないと」
「そ、そうなんですか……?」
「そ、モップがけは気合よ、気合!」
「はぁ……気合、ですか……」
 しばらく考えた後、マルチは「分かりました」と言って、モップを床につけ、
「とぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
掛け声とともに勢いよくモップがけを始めた。思わずこけそうになる祐巳。
「ま、マルチちゃん、声は出さなくてもいいのよ……」
「ええっ、そうなんですか? でも、気合入れるって、掛け声をかけることじゃなかったんですかっ?」
 どうも何か間違った知識を埋め込まれているらしい。
「えっと……まぁ、いいか」
「さ、祐巳さまもっ」
「えっ? わ、私もっ?」
 その日の放課後、1年の教室の前の廊下から、「とりゃぁ〜〜〜」「おりゃ〜〜〜〜」という二人の女生徒の叫び声がしばらく聞こえたと言う。

- 第3話に続く -

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