アカイイト SS
夏の陽差しの注ぐ朝

「ふわぁ〜〜〜〜」
 梅雨の合間の晴れた朝。空には夏を告げる白い雲。そんなすがすがしさとは無関係に、あたしは歩きながら盛大なあくびをかましていた。うう、昨夜、深夜映画なんて見るんじゃなかった……。今日は1限から(それはそれは退屈な)古文だというのに。
 と、そんな調子で学校に向かうあたしの視線の先に、ひょこひょこと動く2本の尻尾を発見。さっきまでの眠気はどこへやら。悪戯心がムクムクと浮かび上がってくる。
 あたしは、足音を忍ばせて、ゆっくりとターゲットに近づく。10m、5m、2m……今だっ!
「は〜とちゃんっ、おはよっ!」
 挨拶と同時──あるいはそれより少し早いタイミングで、あたしは腕をはとちゃんの首に回して後ろから抱きついた。
「ひゃぁっっ!? よ、陽子ちゃんっ?」
 はとちゃんは文字通り飛び上がって驚いてくれた。うーん、満足満足。
「ふふふ、簡単に背後を取らせるなんて、まだまだよのぉ」
「もう、陽子ちゃんってばー。朝からびっくりさせないでよ。心臓、止まるかとおもったよ」
「朝からあたしに会えて死にそうなくらい嬉しいのねっ。ああ、あたしってば罪なお・ん・な」
「わたしが実は心臓病持ちだったりしたらどうするのよ〜」
「そのときは、この奈良陽子ちゃんが、命に代えてもはとちゃんを助けるのよっ。──心臓マッサージとか、人工呼吸とかして」
「──ごめん、やっぱりわたし、心臓病持ってないから」
「あ〜ん、はとちゃんってば、冷たいー。やっぱり心臓病だよ。『氷の心臓』っていう──」
 そこまで言いかけたあたしの頭が、後ろから誰かに小突かれた。
「二人とも、そんなにじゃれ合ってると遅刻しますわよ」
「あ、お凛さん、おはよう。もうそんな時間?」
「おはようございます、ですわ、羽藤さん。まだ大丈夫だとは思うけど、このペースで立ち止まってるなら確実に遅刻ですわね」
「お凛……痛いんだけど」
 お凛は、あたしの頭を小突いたまま、その右手であたしの頭を上からぐりぐりとしていた。ちくしょう、ちょっとばかり背が高いからっていい気になりおって。
「あら、奈良さん、そんなところにいらしたんですか。ちっとも気づきませんでしたわ」
「うそこけーっ! さっきっから人の頭ぐりぐりしてたくせに。しかも、ついさっき『二人とも』っていってたじゃんか、あんた!」
「じゃあ、行きましょうか、羽藤さん」
「って、こら、華麗にスルーすな! って、はとちゃんまでーっ」
 一足先に歩いていく二人を小走りで追いかけて、あたしははとちゃんの隣に並んだ。そこがあたしのいつもの定位置。

 あたしがはとちゃんやお凛と出会ったのは、高校の入学式。東郷凛、奈良陽子、羽藤桂、と、出席番号が並んでいた、ただそれだけだったんだけど、すぐに仲良くなれた。天然ボケのはとちゃん、速攻ツッコミのあたし、腹黒お嬢のお凛。ある意味、実に個性的な面子なわけだけど、それがうまくいってるんだから、おかしなものだと自分でも思う。
 とにかく、この三人でいるのは楽しかった。だから、あたしは、この楽しい時間が、ずっと続く物だと、いつの間にか思っていたんだ──。

 晴れ間は一日と持たずに。翌日は、朝から雨が降り続いていた。
「止みそうにないね」
「天気予報では、今日は一日中雨、と言うことですわ」
「せっかく買い物に行こうと思ってたのに〜」
 休み時間に交わされる、いつもの3人のたわいのない会話。その会話を、電話の着信音が遮った。
「あれ? 誰のケータイ?」
「あ、わたしだ。ちょっとごめんね」
 制服のポケットからケータイを取り出したのは、はとちゃんだった。
「もしもし、羽藤です。あ、宮城さんですか。お久しぶりです。いつも母がお世話になってます」
 どうやら、はとちゃんのママさんの知り合いらしい。はとちゃんのママさんは、翻訳の仕事をやっているから、編集の人かなにかかな。
「え? それって……あの、どういう……」
 おや? はとちゃんの口調が硬くなった。何かあったのかな?
「は、はい。わかりました。すぐ行きます……」
 はとちゃんは、ケータイを口元から離して、終話ボタンを押した。ピッという小さな音が、やけに耳についた。
「はとちゃん、どうしたの?」
 あたしが尋ねても、はとちゃんは答えようとしなかった。
「顔色が悪いですわよ、羽藤さん」
 お凛が、はとちゃんの肩をぽんと叩く。それがスイッチだったかのように、はとちゃんは顔をあたしたちのほうに向けて、言った。
「おかあさんが、倒れたって……」
「「はぁ?」」
 はとちゃんの台詞はまったく現実味を帯びていなくて。だからあたしもお凛もまともな返事ができなかった。だって、つい先週、はとちゃんちに遊びに行った時、ママさんに会ってるんだよ、あたしもお凛も。いつもと変わらない笑顔で、あたしたちの事を迎えてくれたのに。
「どうしよう、どうしよう!」
 はとちゃんの狼狽した声で我を取り戻す。いかんいかん、はとちゃんの癖──時々別世界に旅立ってしまう癖──が移ったみたいだ。
「落ち着いて、羽藤さん」
「でもっ」
 はとちゃんはお凛にしがみつくようにして立っていた。
「お母様は、今どこにいるかご存じですの?」
「……うん、市立病院に運ばれたって」
「なら、急いでそこに行くことが、今、羽藤さんがすべきことですわ。先生方にはわたくしから言っておきますから」
 そう言って、お凛はしがみつくはとちゃんを離すように、ゆっくりとその両肩を押した。肩にかかる両手に気がついたのか、はとちゃんもゆっくりとその手を離した。
「行って……いいんだよね」
「ええ。羽藤さんが行くことが、たぶん、お母様の一番の励ましになるでしょうから」
「うん! 行ってくる!」
 はとちゃんは、机にかけてあった鞄をつかむと、ものすごい勢いで駆け出して行った。
「お凛……はとちゃんのママさん、大丈夫かな?」
「わかりませんわ。詳しい様子も何も聞いていないんですから」
「あたしたちにできること……ない?」
「無い……ですわね。祈ることぐらいしか」
「……そうだよね」
 教室の窓から校庭を見ると、傘を差した生徒が走って校門に向かっているのが見えた。はとちゃんだろう。
「すぐに良くなるといいね」
「そうですわね」

 その二日後。あたしたちはホームルームで、担任から、はとちゃんのママさんが亡くなったことを聞かされた。
「本当に突然のことで、羽藤さんも大変でしょうから、皆さん、羽藤さんを励ましてあげてください」
 担任の話を聞きながら、あたしは窓の外を眺めていた。一昨日から降り続いている雨は、一向に止む気配がなかった。

 はとちゃんが学校に出てきたのはそれから一週間後のことだった。長かった梅雨があけ、夏の始まりにふさわしい陽差しが照りつけていた。
「羽藤さん、大変だと思うけど頑張って」
「羽藤さん、私たちにできることがあったらなんでも言ってね」
 クラスのみんなが、はとちゃんの周りを取り囲んでいた。
「うん、ありがとう」
 いつもと変わらない笑顔でそれに応えるはとちゃん。
 なぜかあたしは、その輪の中に入れなかった。休み時間も遠巻きにはとちゃんの方を眺めるだけ。
 昼休みも、あたしは授業が終わるなり、お弁当を手に取って早々に教室を抜け出し、屋上へと向かった。
 薄暗い階段を登って、重い扉を開ける。ギィィという音が響いた。
「眩しっ……」
 強い陽差しが目を貫いた。思わず目を閉じてその光をやりすごす。少ししてゆっくりと目を開けると、時間が早いせいか、はたまたこの強い陽差しの下にわざわざ出る気がないのか、屋上には誰もいなかった。
「……やっぱり、暑いなぁ」
 給水塔の脇に小さな日陰ができているのを見つけると、あたしはそこでお弁当を食べることにした。ハンカチを敷いて、スカートを押さえながらコンクリートの床に腰を下ろす。
 あたしは持ってきたお弁当の包みをほどいて、蓋を開けた。いつもと代わり映えのしないお弁当。でもまあ、嫌いじゃない。
 箸を持ち、お弁当箱の中に入っていたミートボールを口に運ぶ。やっぱりいつもの味──のはずなのに、何かが違うような気がした。
「はぁ……」
 なんとは無しに、ため息をもらしてしまう。と、あたしの前に誰かが立ったのが分かった。
「あら、こんな所で一人でため息とは、奈良さんらしくもない」
「お凛……あんたこそ、なんでこんな所にいるのさ?」
 顔を上げると、そこにはお凛が立っていた。右手に購買で買った紙パックのジュース、左手に同じく購買のサンドイッチという、いつもの昼食スタイル。金持ちのくせに、なんでそんな美味くもないようなものをわざわざ買っているのか、謎だ。
 もっとも、今の問題は、お凛がわざわざ屋上まで来てる、てことなんだけど。
「奈良さんこそ、どうしてこんな所に? いつも、羽藤さんを誘って食べてらっしゃるのに」
「別に……たまには一人で食べたいときもあるのよ」
「そうですか」
 そう言うと、お凛は、あたしの隣に腰を下ろし、右手に持ったジュースにストローを差し込み、ズズっと吸った。
 それから特に何も話しかけて来なかったので、あたしも自分のお弁当を平らげることに専念することにした。しかし……この二人が、屋上で、無言のまま昼食をとってるというのは、かなり珍しい──不気味と言ってもいいかもしれない──光景ではなかろうか。
 あたしがお弁当を半分ほど食べ終えたところでお凛の方を見ると、お凛はまだジュースを飲んでいるだけで、サンドイッチに手を付けていなかった。
「……食べないの? それ」
「あまり、食欲が無くて。奈良さんこそ、随分ペースが遅いのではなくて?」
「……あたしも、同じかな」
 いつもなら、とっくに食べ終えてる時間だ。で、まだはとちゃんがもぐもぐやってるのを見て、からかうんだ。
「はとちゃん……」
「羽藤さんがどうかしましたか?」
 しまった。つい口に出してしまっていたらしい。ううっ、奈良陽子、一生の不覚っ。
 でもまあ、聞かれてしまったものはしょうがない。せっかくだからお凛に訊いてみようか。
「ねえ、お凛。あたしたち、はとちゃんの友達だよね?」
「何を今更」
「だからさ──なんて言ったらいいのかな。あたしたちが、はとちゃんの為にできることって、何か無いかな?」
「羽藤さんに? 励ますとかでは駄目なんですか?」
「うん……それ、なんか違うような感じがしてさ。ただ『がんばれ』っていうのって、すごくてテキトーだと思わない?」
「そうですね……。羽藤さんは、もともとも頑張ってる人ですものね」
「うん。ただ、じゃあ他になんて言ったらいいのかな、って。考えたんだけどあたしの頭じゃ思いつかなくて。お凛、頭いいんでしょ? こういうとき、何かいい言葉はないの?」
「頭がよくても、それとは別問題ですわ、きっと。私は羽藤さんではありませんから、羽藤さんの気持ちは分かりませんもの。それに、大切な人が亡くなった、という経験もありませんわ」
「そんな経験、あたしだって無いよ……」
「なら、考えるしかないですわね。奈良さんが羽藤さんのことを大切に思う気持ちが本当なら、きっと、何かしらの答えは見つかるんじゃないでしょうか」
「お凛……あんた、たまにはいい事言うね」
「たまには、とは失敬な。少なくとも奈良さんよりは、いつも建設的な意見を言っているつもりですよ?」
「ってことは、あたしがいつも非建設的な話ばかりしてるってことかいっ?」
「そうは申しておりませんわ」
「かーっ。まったく、口が減らないお嬢なんだからっ」
 正直、こいつには一生、口では敵う気がしない。
「いろいろ鍛えられてますから。あと、一応言っておくと、先程の台詞は私も人からの受け売りですから」
「人から? 誰の?」
「いろいろありまして」
 まあ、こいつの家だと、親戚関係とかいろいろありそうだもんなー。他人のお家騒動に口を突っ込むつもりは毛頭ないので、この話題は置いておこう。
「やっぱ、考えなきゃ駄目なのかな?」
「そうですわね。もっとも、下手の考え、休むに似たりとも言いますけどね」
「なにをーっ」
「なんにせよ、奈良さん自身の言葉でないと、きっと羽藤さんには届きませんわ。私に言えるのはそれだけですわ」
「あたしの、言葉?」
「ええ。わたくしみたいに、人の受け売りばかりでは──駄目なんです、きっと」
 そう言うと、お凛は少し顔をうつむけた。
「お凛、あんた──」
「はい?」
「あたし相手に、そんなしおらしくしても無駄だから」
 お凛は、がっくりと肩を落とした。
「せっかくのシリアスな雰囲気をあっさりとぶち壊してくれましたわね……」
「いや、だって、あんたの性格、だいたいわかってるし」
「……まあ、長い付き合いですからね」
 その時、昼休みの終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。
「やばっ、予鈴だ。戻ろっ、お凛」
「そうですわね。次の数学は、時間ぴったりに来る人ですから急がないと」
 あたしは弁当箱を包み直して、すぐ後ろに、お凛がいることを確認すると、屋上の入り口に向けて走り出した。

 でも結局、その日ははとちゃんに何も言えなくて。
 そのままなんて言うべきか思いつかないまま、次の日を迎えてしまった。
「おはよー、陽子」
「あ、おはよ、なおちゃん」
「ねーねー、昨日のアレ、見た?」
「見た見た」
 いつもとかわらない、始業前のクラスメートとのおしゃべり。だけど、はとちゃんはそこにいなかった。
「ねえ、ところでさ。はとちゃん知らない?」
「羽藤さん? まだ来てないみたいだけど」
「そっか」
 だけど、ホームルームのチャイムが鳴っても、はとちゃんは教室に来なかった。
「あら? 羽藤さんは休みなの? 誰か、何か聞いてない?」
 担任も知らなかったらしい。なんか──いやな予感がする。
 ホームルームが終わって、担任が教室から出るのと同時に、あたしは隣の席に座ってた子に声をかけた。
「ごめん。今日、気分悪いから早退するわ」
「え? 奈良さん、それって……」
 その子の言うことを最後まで聞かずに、あたしは教室の出入り口に向かって走り出した。
「ちょっと! 奈良さん!」
 だれかがあたしの名前を呼んだのが聞こえたけど、そんなことにかまってられない。あたしは玄関で外履きに履き替えると、そのままの勢いで校門を飛び出した。

「はあっ、はあっ、はとちゃん……」
 勢いだけでつっ走ったから、息が切れる。それでも、足を休める気にはなれなかった。
 はとちゃんはどこに行ったんだろう。今、はとちゃんが行くとしたら……。落ち着け、奈良陽子。考えるんだ。あたしははとちゃんの親友だよ。あたしがはとちゃんを見つけられなくてどうするのよっ。
「はとちゃんは、ママさんの事が大好きだった。だったら……でも……それって」
 悪い考えが、どんどんと頭の中に浮かんでくる。
「えーい、やめやめっ。やっぱ頭だけで考えるのはあたしの性にあわん!」
 まず、真っ先に思いついた場所へ行ってみよう。
 はとちゃんの家へ。

「到着〜はぁはぁはぁはぁ……」
 はとちゃん家は、学校から徒歩15分ぐらいのところにあるちょっと古目のアパートの二階。もう何度も遊びに来てるから道はよく知ってる。
 建物の外壁に備えつけられた階段を上って、はとちゃん家のドアの前にたどりつくと、あたしは無意識にドアノブに手をかけて──へっ?
 回ってしまった。そのままごく自然にドアを引くと、ドアは何の抵抗もなく開いた。
「ど、どうなってるのよ。とりあえず、お邪魔します……」
 靴を脱いで部屋の中に上がる。真正面が居間。音を立てないようにそっとドアを開けてみる。でも、そこには誰もいない。──当然と言えば当然なんだけど。
 そこから左手にある襖を開ければ、はとちゃんの寝室だ。こんな所にいるはずが無い、と思いながらも、さっきと同じように、音を立てないようにそっと襖を引くと。
 制服を着たまま布団の上に倒れているはとちゃんの姿が目に飛び込んできた。
「はとちゃん!」
 あたしはもう、矢も盾もたまらず、はとちゃんのそばに駆け寄った。肩をつかんで、思いっきり揺する。
「はとちゃん、しっかりして! はとちゃん!!」
 すると。
「ん〜〜〜〜」
 はとちゃんがゆっくりと目を開いた。
「あれ〜、ようこちゃんだ〜〜。……ふにゃぁ〜〜〜〜」
「はとちゃん!」
 あたしは思わずはとちゃんを抱きしめていた。
「はとちゃんだよ……良かった……」
「え、あれ、陽子ちゃん? なんでこんな所にいるの? ちょ、ちょっと、どうしたのよ、陽子ちゃんってば。陽子ちゃん……泣いてる、の?」
 あれ? あたし、泣いてる? なんでだろ。はとちゃんがいてくれて、嬉しいのに──ああ、そうだったんだ。あたしは──。
 はとちゃんが大切だから。大切な人に、いなくなってほしくないから。
「だって、はとちゃん、連絡も無しに休むから、どうしたのかと思って、で、考えてたらどんどん嫌な考えが浮かんじゃって……」
「うん……大丈夫だよ、陽子ちゃん。わたしは、どこにも行ったりしないからね」
 そう言って、はとちゃんはあたしの背中をぽんぽんと叩いてくれた。
「うん」
 抱きしめたはとちゃんの体はとても柔らかで、暖かかった。はとちゃんの吐息が耳にかかって、すこしくすぐったかった。
「でも、はとちゃん、どうしてあんな格好で……」
「いや、その〜。それがですね」
 そう言いながら目をそらすはとちゃん。……なにか、さっきまでとは違った意味で嫌な予感が。
「朝ね、すごく、眠たかったの」
「ふむふむ」
「でね。ゴミだけ先に出して、まだちょっと時間あるなーとか思って、布団に転がったら、そのまま……」
「このどあほーっ!」
 あぁっ、今ここにハリセンが無いのが恨めしい。そうだった。はとちゃんってば、そういう娘だったんだ。
「わっ、陽子ちゃんってば、そんなに怒らないでよー」
「うるさいっ。このバカ娘がっ」
 さらに続けてはとちゃんを罵倒しようとしたその時。あたしの頭の上になにかが乗せられた。
「寝こけて無断欠席するのと、カバンを忘れて全速力で早退するのと、どちらがバカかしらね」
「あれ……お凛? なんでここに?」
 あたしの頭の上に乗っかってるのは、学校指定の通学カバン。たぶん、あたしの。
「まったく、教室を抜け出すのに苦労しましたですわ」
「抜け出す、ってどうして……」
「このお馬鹿娘が、カバンも持たずに教室を飛び出したから、ですわ」
 そう言うと、お凛はカバンを、あたしの頭のてっぺんにグリグリと押しつけた。
「うおー、だからそれはやめろーっ! ハゲたらどうすんじゃーっ」
「案外、頭皮に刺激が加えられることで、毛根が活性化されてるかもしれませんわよ?」
「んなわけあるかーっ」
 その時、あたしの視界の外から笑い声が聞こえてきた。
「あはははっ。もう、二人とも何しにきたのよ〜」
 笑い声のした方を見ると。はとちゃんが目に涙を浮かべて笑ってた。
 ……そこまで爆笑せんでも。
「本気で、お笑いコンビでも目指します? 奈良さん」
「遠慮しとくわ」
 はとちゃんはまだ笑ってた。でも、ま、いいか。はとちゃんがこうして笑ってくれるなら、道化にでもなんでもなりましょう。
 部屋には、もうすっかり夏に向けて衣替えを済ませた陽差しが降り注いでいた。今日も暑くなりそうだ。
「ところで、今日はどうするんですの?」
「どうするって?」
「学校をさぼって、どうするのか、ということですわ」
「あ……」
「あ……」
 あたしとはとちゃんの声がハモった。

 その後のことは──まあ、そのうち、ね。
「逃げましたわね、奈良さん」
「あんただって逃げたじゃんか!」
「ううっ、ひどいよ、二人とも〜〜」

- fin -

あとがき


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