「ねぇ、服買いに行こうよ!」
クウの提案で、ラッカたち一行は古着屋に向かった。ラッカとしてもいつまでもこんなみすぼらしい格好は嫌だったので、クウの提案には大賛成だった。
古着屋は、メインストリートから外れた、陰気臭いとおりのなかにあった。
「いらっしゃい……見ない顔だね。新生子かい?」
古着屋の店主はあまりやる気のなさそうな若者だったが、見慣れない顔ぶれに少し興味を引かれたらしい。逆に、クウやカナはここの常連のようで、お互い特に関心を示す事も無かった。
「はい。ラッカ、って言います」
「ふーん。じゃ、あんたはあっちの列の中から好きなの選んで」
「はい」
「あたしらは?」
「あんたらはこっち」
「うへー」
ラッカは何着も服がつり下げられているハンガーを見回した。古着屋とはいえ、ここにあるのはどうやら上物らしい。アイロンはしっかりかけてあるし、ほつれやしわになっているところも無かった。
「どれにしようかな……」
ラッカだって女の子。自分の着る服には気をつかう。
しばらくして、一着の服がラッカの目に留まった。
「あ、これかわいいかも」
ハンガーから引っ張りだし、目の前にかかげてみる。
「ラッカー、決まったー?」
「うん! じゃ、これください」
「はいよ。手帳は……持ってないのか。じゃ、これにサインして。あと、小羽を一枚」
買い物には「灰羽手帳」なるものが必要らしい。持っていなかったラッカは、サインと自分の羽を一枚、店主に引き渡した。
「あ……」
ふとラッカは気づいた。おそらくは人間用のものだったのだろう。背中に羽を出すための穴がないのだ。
「……ん? ああ、そうか。……よし、今回は特別サービスだ!」
ラッカの表情を見て気がついたのか、店主は親切にも背中に羽を出すための加工をしてくれた。親切は嬉しかったが、「わたしってそんなに分かりやすい顔、してたのかな……」と、少々納得の行かないラッカだった。
☆
「ただいまー」
「あ、ラッカ。おかえり」
オールドホームのゲストルームにはレキがいた。今日はここで子供たちの相手に追われていたのだ。
「みてみて。服買ったんだ」
ラッカは、緑色のブレザーに、薄茶色のミニスカートという格好だった。白いセーラーカラーと胸元を飾る赤いリボンが可愛らしい。袖やスカートのすそに入ったストライプがアクセントになっている。
レキの目の前でモデルのようにクルッと一回転するラッカ。ミニスカートのすそがふわりと広がる。と、それを見ていたレキの表情が急に険しくなった。
「ラッカ……その服……」
「どう、似合う?」
「いや……かわいいと思うけど…………」
「レキ?」
「……やっぱりごめん。その服、返してきてくれない?」
「えっ?」
「いや、ラッカは悪くないんだ……ただ、あたしがね……」
「なんで?」
「なにか……こう……その服を見てると、すごく嫌な気分になるんだ……少し、頭、痛い」
「大丈夫?」
「いや、着た事なんかないんだ。でも、なにかまるで、自分が昔着てたような気がして……」
「……もしかて、灰羽になる前の事?」
「わからない。もしかしたらそのさらにずっと前かも……」
「レキ……わかった。じゃ、返してくるね」
「ごめん……」
ラッカは、再び町の古着屋に向かった。
☆
「……そういうわけで……交換していただけないでしょうか?」
「はぁ……まぁ、新入りさんだしな。いいよ。ただし、今回だけな」
「どうもありがとうございます」
ラッカは頭を下げると、再び古着のかかったハンガーを見回した。しばらくして気に入った服が見つかったらしく、それを着て帰っていった(もちろん今回も背中から羽を出せるようにしてくれた)。
ラッカが帰ったあと、古着屋の店主はめんどくさそうにアイロンを取り出した。
「もう灰羽にしか売れないんだけどなぁ……。それにしても、こんな服、いつ入荷したっけか」
ブレザーを一度ハンガーにかけようとした時、裏地になにか縫い取ってあることに気がついた。
「……これは……前の持ち主の名前か?」
そこには、金色の糸で、「ひびきの高校 陽ノ下 光」と縫い取ってあった。
- fin -