落ちてゆく。
定規で線を引いたようにまっすぐに落ちてゆく。
どこまでも。どこまでも。
怖くはないけれど、体がとても冷たい。
鳥が私のことを見ている。
……何かを伝えたいんだろうか。
でも、その声は届かない。私の声も届かない。
落ちてゆく。
どこまでも。どこまでも。
不意に。視界が開けた。
☆
「きゃあっ!」
ドスン!
体が何かにぶつかった。
「いたたた……」
ゆっくりと目を開ける。
視界に飛び込んできたのは、薄汚れた天井。
ゆっくりと視線を動かす。左へ。
「……ベッド?」
ようするに。これは。
「……起こしに来る必要、無かったみたいね。」
「れ、レキ!」
「おはよう、ラッカ。気持ちのいい目覚めだね」
ニヤニヤしながらレキが言った。
「うー」
上半身を起こして、上目遣いにレキをにらむ。私がこんなことしても、ぜんぜん迫力ないって、わかってるんだけど。
「……いつから見てたの?」
「ん? いや、扉を開けたら、ラッカがベッドの上でもぞもぞと動いてて、そしたらだんだんと体がベッドの左側に寄っていって、そしたら……」
「……見てたんなら、落ちる前に起こしてよぉ」
「悪い悪い。あんまり面白かったんでつい見惚れちゃって」
「もう……。あ、い、言わないでね」
「わかってるよ。しかし、いくら名前がラッカだからって、ほんとに落ちるかなあ。アハハハっ」
自分の台詞に自分でウケているレキ。あいにくこっちはちっとも笑えない。
「レキー、あ、ラッカも、おっはよー!」
そのとき、レキの後ろから声がした。
「おはよう」
「あ、クウ、おはよう」
「……ラッカ、なに床に座ってるの?」
「え、えっとね、これは……その……」
「いやぁ、ラッカの奴さぁ……」
「もう、レキってば! 言わないでって言ったじゃない!」
思わず大声を出してしまう。
「あー、なんかあっやしいんだ〜」
「クウまで〜。そんなんじゃないんだってばぁ……」
でも、クウはもう次のことに興味が移ったのか、レキと私の横をすり抜けて、洗面所に向かって走って行った。「あっさごはん〜」とか歌いながら。
「ほら、起きなよ」
そう言ってレキは手を差し伸べてくれた。なんだかんだ言っても、こういうところ、優しいんだよね。
私がその優しさに甘えて、レキの手をつかむと、レキはゆっくりと私の体を引き上げた。
「何か、夢でも見ていたの?」
「え、う、ううん、別に」
繭の中で見た夢をまた見ていた事、本当は覚えている。だけど、それを言ったらまた笑われそうだったので、私は笑ってごまかした。……ごまかせたかどうかは別として。
「カナとヒカリももうすぐ来ると思うよ」
洗面所から顔を出してクウが言った。
「ネムは?」
「わっかんないー。ネムだしなぁ」
「あ、じゃぁ、私、起こしてくる」
「あ、ほんと? じゃぁ、ラッカ、頼むわ。一筋縄じゃ起きないから、覚悟しなよ」
「うん!」
廊下を出て階段のほうへ向かって走り出す。
「階段から落ちないようにねー」
「えっ?」
つい声のしたほうへ顔を向ける。でも足は階段を降りようとしていて……。
「きゃあっ!」
ドスン、ドスン
「いたたたた……」
「……大丈夫? なんか派手に落ちたみたいだけど?」
頭のすぐ上から、ヒカリの声がした。
「う、うん……。ごめんね。びっくりさせちゃって」
「いくら名前がラッカだからって、階段からは落ちないように気をつけなくちゃね」
……あぁ、反論できない。
夢ってこのことを暗示してたのかな? とにかく今度は慎重に降りるようにしないと。
☆
で。慎重になりすぎて。
ネムを起こすのが随分と遅れて、結局わたしまで朝ごはん抜きで出かける羽目になった事なんて、書かなくてもいいよね……だめ?
- fin -