ちっちゃな雪使いシュガー SS
Snow Again

第2話

「はぁっ、はぁっ……」
 まったく、あの花屋ったら、手際が悪いんだから! 今日だけは絶対に遅刻できないのに!
 三年間通った中学の卒業式が終わって四日。今日、サガさんはこの街を離れる。ピアニストになるために、音楽学校へ通うことに決めたのだ、彼女は。そこで、みんなで見送りに行くことを決めたのだけど……。
「よかった、この調子なら間に合いそうですわ」
 ゆるい坂を登り、角を曲がる。次の角を曲がれば駅が……。
「きゃぁっ!!」
「うわぁ!!!」
 角を曲がったところで、何かに突き飛ばされた。
「痛っぁい……」
 たまらず尻餅をつく。もう、服が汚れたじゃない!
「大丈夫かい、お嬢ちゃん?」
 見ると、目の前にはどっしりとしたおじさんがこちらを見下ろしていた。
「え、ええ。大丈夫ですわ」
 そう、私は大丈夫。ちょっと痛いけどたいしたことはなさそう。そうだ、花束は……
「あぁっ!!」
 花束は……大きなトランクの下敷きになっていた。
「そんな……」
「大丈夫かい? なんか急いでたみたいだったけど。すまんなぁ」
 そうだ。私は急いでたのよ。こんな所で座り込んでる場合じゃない。腕時計を見ると、列車の出発までもうほとんど時間がなかった。
トランクをどかして花束を取り出す。もうボロボロだけど、そんなこと気にしてる場合じゃない。
「あ、おい!」
 おじさんが何か言いかけたけど気にしない。もう駅はすぐそこなのだから。

 入場券を買って改札をくぐると、すでにホームには列車が到着していた。
 サガさんたちは……いた。ここから一車両ほど先頭方向。アンヌやノーマたちの姿も見える。私は走りながら声を掛けた。
「あ〜ら、サガさん。はぁはぁはぁ……もう出発ですの……はぁはぁ……」
「グレタ! ど、どうしたの? その格好?」
 きっと、ひどい格好なのだろう。全力疾走してきた上に途中で思いっきり転んだし。
「おほほほほ。な、なんでもなくてよ。そ、それより…ぁ……」
 そうだ。花束もあのときボロボロに……。
「その花束……どうしたの?」
「え、こ、これは……その……」
 情けなかった。友達の見送りさえちゃんとできないなんて。
 昔から引越しが多く、人付き合いが苦手だった私に声を掛けてくれたのがサガさんだった。でも、素直になれなくて、今から思えばいろいろと無茶したと思う。
 そう、サガさんは、私にとって初めての、本当の、友達だったんだ……。
「ちょ、ちょっと、グレタ……泣かないでよ〜」
「な、泣いてなんか……っ……いません……っわ……」
「……ありがとう。グレタ」
 そして、サガさんは私の手の中にあった花束を取った。
「ほら、泣かないで。……あたしまで泣きたくなっちゃうじゃない……」
 不意に。
 右の頬に暖かく柔らかいものが当たるのを感じた。
「……え……?」
 サガさんの髪の香りが鼻を掠めていくのがわかった。
「え、え、えぇっ!!!!」
 えっと、い、今のは、サガさんが、私に、あ、あの、その。
 だめだ。頭に血が上って、何も考えられない。
「あ、そろそろ列車出ちゃう! じゃぁね! みんな元気でね」
 気が付くとサガさんは列車の中にいた。手にはあの花束を持って。
 扉が、ゆっくりと、閉まる。そして、列車は走り出した。
「サガ〜、がんばってね〜〜〜〜!!」
「手紙書くから〜〜〜」
 みんなが、手を振っているのがわかる。そうだ、サガさんは行ってしまうんだ。
「ま、待ちなさい!サガさん!卑怯よ!あんな不意打ちを食らわせたまま行くなんて!」
 気が付けば私も大声で叫んでいた。
「いいこと!このままじゃ終わらせないんだから!私はあなたのライバルなんですからね〜〜〜〜〜!!」
 ゆるいカーブを抜けて、列車は見えなくなった。

 ぺたん。
 列車が見えなくなると同時に、私はその場に座り込んだ。
「ふぅ……」
 さすがに全力疾走のあとに大声を出したのは無謀だったかも……。
 どうにか落ち着いたところで感じたのは、不躾な視線。顔を上げると、アンヌたちがこちらを見てニヤニヤしている。
「な、なによ……」
「べつに〜」
「よかったね、グレタ」
「よ、よかったって、なにが」
 あぁっ、もう! わざと考えないようにしていたのに!
「あ〜ら、グレタさん、お顔が赤いですわよ」
 ノーマが人の口調を真似して言った。
「こ、これは、そう。走ってきたからよ! そうなのよ!!」
 ああ、もう! これ以上ここにいると何言われるか分からない。そう思って何とか力を振り絞って立ち上がる。
 そんな私を手助けするかのように、風が吹いた。火照った体を静めてくれるかのような、涼しい、優しい風。
「うわぁ、気持ちいい風」
「もう春だよね〜」
 そう。もうすぐ新しい春。サガさんは、一足早く行ったけど、私たちも、新しい道に向き始めている。別れもあるけど、終わりじゃない。
「サガ、ピアニストになれるかなぁ?」
 駅を出て、坂道を下りながら、ノーマが言った。
「なれるわよ、きっと。サガ上手だし、誰よりピアノ好きだし」
「そうだよねっ、うん! で、この街でコンサートやったりして!」
「その時は、わたくしが最前列の席を頂きますわ」
「あぁーっ、グレタずるいー! 私も最前列だもん!」
「まぁまぁ、二人とも〜」
「……がんばらなくてわね」
「え?」
「サガさんが夢を実現させて戻ってきたとき、わたくしが夢をかなえていなかったら、つりあいが取れないじゃない? ライバルとしては」
「……そうね。私たちもがんばらなくちゃ。ね、ノーマ?」
「うん。がんばるよ! あたしだって夢、あるんだもん!」
 空を見上げる。暖かな日差し。白い雲。優しい風。
 春は、もうすぐそこ。

第3話

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