ガンパレード・マーチSS
芝村杯争奪戦

その1

「「どっち!?」」
 瀬戸口がその声を聞いたのは、プールチケットの陳情をしようと隊長室に入ろうとした瞬間だった。
(あちゃー、修羅場にぶつかっちまったか……)
 そのピリピリした雰囲気の中に踏み込む勇気、いや、無謀さを瀬戸口は備えていない。故に、入り口からこっそりと中を覗く事しか彼にはできなかった。
(壁際に追い詰められてるのは……あらら、司令じゃないか)
 速水ならともかく、堅物な善行司令が争奪戦を引き起こしてるとは珍しい。
(で、お相手は……)
 壁を背にしている善行に対して、彼を追い詰めている二人は後姿しか見えなかった。
 一人は小柄、というか華奢で、ややウェーブのかかった綺麗な髪を腰までたらしている。顔を上げれば結構美人なのだが、いつも、そして今もその顔はうつむいたままだ。
 もう一人は対照的に大柄。日本人離れした長い脚とふくよかな体つき。褐色の肌がよく似合っている。そばにいるだけで暖かさを感じるような人。たまに妙なことを言い出すのが玉に瑕だが。
(石津にヨーコさん……? こりゃまた妙な組み合わせで)
 普通、人の好みというのはある程度限定されるものだ。誰それかまわず声をかけるのは速水か瀬戸口ぐらいな物である。
「うるさいな。俺は全女性の味方なだけさ。ぽややん坊やと一緒にしないでくれ」
 地の文にツッコむなよ。
 とにかく、善行がまるで共通点の無い二人相手に二股をかけているということに瀬戸口は少なからず驚いていた。
「「どっち!!?」」
 再び、部屋の中から聞こえてくる詰問の声。熊本中にその名をとどろかせている5121小隊の名司令といえど、この戦局の挽回は難しいように思えた。
 その時。
「ししょぉ〜、何やってんですかぁ〜〜!!」
 思わずこけそうになる体を必死でこらえる。
「あれ、師匠? 何こけそうな体を必死でこらえてるような顔してるんすか?」
「た〜き〜が〜わ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
 大声を出しながらやってきたのは、『雰囲気を解さない男』こと滝川陽平。
「そんなことより師匠、今度ゲーセンに新しいシューティングゲーム入ったんすよ! 遊び行きませんか?」
「…………………………………………」
 なぜ俺はこんな奴に師匠呼ばわりされなければならないのだろう。そう思う瀬戸口隆之、17歳の春であった。
(はっ!)
 気が付くと、石津とヨーコと善行が、こちらを見ていた。もちろんまだピリピリしっぱなしである。いや、善行だけはほっとしているようだが。
「そ、そうだ。彼らにも意見を聞いてみようじゃないですか」
 と、善行がなにやら妙なことを言い出した。
「……そう……ね」
「れっつビギンです」
 そして、その提案にのる二人。
(な、何を聞くつもりだ……?)
「滝川サン、瀬戸口サン」
「どっちが……衛生官……ふさわしいと……思う?」
「はぁ?」

 事の発端は、先日行われた校舎の修理にさかのぼる。
 誰が言い出したのかは今となってはよく覚えていない。とにかく、連日の雨でボロボロになった校舎を全員で修理することになったのだが、どうやらそこでヨーコが「目覚めて」しまったらしいのだ。
「校舎ノ修理、けが人のオ世話、皆サンの体調管理、布団干シ、これ、ワタシの天職だったデス! これならモウみんなにバカとかいわれまセン!」
「布団干しは……遠坂くんだけで……十分……」
「なに、あれ、石津がやらせてたの?」
「……あの人……扱いやすい……から……」
 なにか問題発言がさらっと出たような気がする。
「……とにかく……衛生官は……私……。それに私……整備……できない……」
「そんナの、覚えればいいデス。馬鹿のワタシにもできまシたから! レッツびぎんデス」
「……嫌……」
「とまぁ、こういう訳なんですよ。どう思いますか? 瀬戸口君」
 二人の口論(?)をさえぎって善行が話し出した。
「どうって言われてもなぁ……」
 正直、どっちでもいい、というのが実感である。
「滝川君はどうですか?」
「えー。どっちでもいいじゃん、そんなの」
 あっさり思ってることを口に出す滝川。
「「!」」
 次の瞬間、石津とヨーコに思いっきりにらまれる。さすがに顔を青くする滝川。ようやく事態が飲み込めてきたらしい。
「「どっち」」
 そして、今度は滝川に詰め寄ってく二人。いつもの逃げ足の速さもどこかに行ってしまったかのようで、蛇ににらまれた蛙のごとく硬直している滝川。
「と、となりの囲いに家ができたってねぇ……」
 意味不明な言い訳をする滝川。
「「……それで?」」
 もちろん、何の解決にもならなかった。むしろ悪化している。
「なるほど」
 と、どこからか男の声が聞こえた。たった一言だが、やけに尊大で存在感のある声だ。
「! 誰だ!?」
「俺だ」
「「「「うわぁっ!!」」」」「……ぅわ」
 声は、陳情用のテレビ電話から聞こえていた。そして、その先にいるのはもちろん──
「準竜師閣下……驚かさないでくださいよ。どうされたんですか?」
 いち早く平静を取り戻した善行が尋ねる。
「たわけ。部隊運営に問題を起こされるのはこちらとしても迷惑なのでな。よい方法がある」
「それは?」
「勝負だ」
「勝負?」
「芝村に昔から伝わる方法だ。どちらが衛生官に向いているか、実際に仕事をさせて決めればよいであろう。」
「なるほど、確かに名案です。しかし、なぜ突然こちらに電話を?」
「芝村に監視されていない人間がいるとでも思ったか」
「…………」
「おもしろそうだったしな」
「…………」
 どうやら、暇らしい、芝村。
「そうだ、瀬戸口」
「はっ」
「プールチケットなら無いぞ」
「なにぃぃぃぃっ!」
「たわけ。お前らがしょっちゅう陳情するからだ」
「そ、そんな……」
「どうでもいいが、こうしていると俺は故人の写真のようだな」
「…………」
「以上だ」
 こうして通信は切れた。どんなときでも芝村ギャグを忘れないあたり、さすがだ、準竜師。
「……コホン。では、二人とも、そういうことでいいですか?」
「オッケーです!」
「……まかせて」
 火花を散らす二人の視線。その奥にはなんかどこかイッちゃった瀬戸口。しばらく立ち直れそうにも無かった。

- to be continued -

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